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セットについてから、先ほどと同じようにファーだらけのスリッパを穿こうとする俺の体が急に浮いた。
同時にスタジオ内が少し騒々しくなるが、呆然とする俺を抱き上げる玲央しか視界には入らない。

きゅ、急になにしてんだ、こいつ。

アホ面でもさらしていたのか、玲央はそんな俺にくすりと微笑み、そのままソファーまで歩き出す。
急なことでバランスを失った俺が玲央にしがみつくと、玲央は器用にも体制をお姫様だっこに変えてきた。


「……っ」

「はっ」


恥ずかしくても声を出せずにいる俺を玲央が笑う。
理解できないことに……今の玲央はとても楽しそうである。

ソファーまでたどり着いた玲央は、俺を抱き上げたまま腰を下ろした。
先ほどとは違って膝に乗る俺は、どうすればいいのか分からず玲央を見上げるが、やつは大層面白そうに片膝を立て、自分の体と膝との間に俺を収めるように抱きしめてくる。


「……」


お腹を抱える玲央の両腕がとても温かい。
斜め後ろからこちらを見る玲央の視線が、優しい。

まるで街灯に魅せられた虫のように、俺は玲央の頬に手を伸ばす。
そっと、優しく撫でると獣が笑う。とても穏やかな瞳は、今まで見たことのないものだった。


「……お」


出してはいけない声で、思わず名前を呼んでしまう。
間近で聞いていた玲央は、恭しく笑った。


「小虎」


と、一言。それはそれは聞いたこともない蕩けるほど甘く、柔らかでいて扇情的。
爪先から頭の芯までジィンと悩ましい刺激が通っていくようで。

……もしも本当に俺が女の子で、玲央と兄弟でもなんでもなければきっと、この人に惚れていたに違いない。


「!」


と思うのも束の間。
玲央は俺の脇腹を掴んだかと思うと、急に体を持ち上げてきた。
そのまま向きを変えられて、またしても膝を跨ぐような格好に。

突然のことに驚く俺を笑う玲央が、「ばーか」と口パクしてきやがった。
なんだか少しだけムッとして、普段なら絶対にできないことをしかけてみる。
俺は、思いっきり玲央の髪をぐしゃぐしゃに撫でてやったのだ。

ふんっ、ざまぁみろ!
そう笑う俺の顔を挑発的に見つめる玲央が、それはそれは悪戯気に微笑むのであった。




 


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