凄味のある怒気をはらんだ、けれども端正な顔立ちの獅子が俺のウィッグに触れる。そのままウィッグを耳にかけると、なにかを確認するように耳を揉んできた。俺を支える手に、力が増す。
「……なんで、怒ってんの?」
「……」
玲央がここまで怒っている理由が分からず素直に問うと、その身体がピタリと止まった。
かと思えば、鋭い眼差しでこちらを見下ろしてくる。
……黙ってたこと、怒ってんのか?
「……ごめん……でも、今回のことは」
「どうせ匡子が考えたんだろ」
俺が謝った理由が分かっているのか、相変わらず睨んだままの玲央が口を挟む。
その表情を伺ってから、一度目を逸らした。
「……ん。でも、誰かが傷つくよりは……いいかなって思う」
本音を言ってしまえば、軽い気持ちで臨んでいたのは確かだ。
けれどいざ現場にきて女性モデルのあの視線を痛感した今、すべてではないけれど、後悔が消えたのも本当だ。
れっきとした女の子を採用して、その子が怖い目に合うよりは、いい。
俺のそんな言葉を聞いた玲央は、小さなため息をつくなり俺を抱えたまま自販機コーナーの長椅子に腰を下ろした。
「ちょ……玲央、これ、は……っ」
「誰も来ねぇよ」
ありえない姿勢に咎めるも、当の本人はケロッとしたまま俺を抱き寄せる。
……いくら今、俺が女装しているからといって自分の膝に跨がせるのはいかがと。
正面でこちらを見る玲央の視線から逃げるように俯くと、そんな俺の頬に温かな手が触れた。
「……んっ」
くすぐったさに身をよじる。
頬全体を撫でていた手がゆっくりと、指一本一本、顎の下を順に撫でてくる。
行動の意味が分からず玲央を見ると、その瞳からはもう、怒りは消えていた。
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