「またお孫さんを探していたんですか?」
「いいえ。今回はね、違うの」
「そうなんですか? ははっ、梶原さんって入院してるとは思えないくらい、元気ですね」
「やだ小虎くんまで、マリちゃんもそう言うんだから」
ぽわぽわ。小さなお花が俺と彼女の周りを漂う。ここだけはまるで夏とは無縁な陽気な日差しの中みたいだ。
俺は志狼を紹介しようと後ろを見る。そこでまた、俺は目を瞠った。
「……志狼、お前、ほんと……大丈夫かよ……?」
もはや見るに耐えないほど生気をなくした志狼の顔は、ここ数時間のあいだで随分と変わってしまった。
顔立ちがいいぶん、余計にその青白さが目立つのだ。
診察が目的でないにしろ、このままでは倒れるだろう志狼を受付に促そうと、俺は彼女のほうに体を戻す。
「あの、梶原さん。すみません、友人の具合がちょっと……」
「しろう、っていうの?」
「え? あ、あぁ、はい。友人は志狼って名前ですけど、それが……」
なにか。そうつづくはずだった言葉を飲み込む。
さすがに鈍感な俺だってこれには気づく。あぁ、そうか、梶原さんの待ち続けていたお孫さんというのは――。
「二人とも、私の個室にいらっしゃい」
どこか悲しそうな梶原さんの声音に、後ろに立つ志狼の気配も沈んだ気がした。
先ほどの看護師に手を引かれながら個室に戻る彼女の背を追う。ちらりと見た志狼の顔はやはり生気がなく、見るたびにこちらにもその痛みが走るような気さえした。
梶原佐代子と書かれたプレートを掲げた個室の前まで来ると、さすがに俺も場違いな気がして緊張を覚えはじめた。
多分、ていうか絶対、梶原さんと志狼は身内で、おまけに仲はあまり……かなり、よろしくないはずだ。
だけどそれは家族間の問題であって、第三者どころでもない俺がこの二人のあいだに立つのは間違いではないだろうか?
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