「だからさ、気づいたんだよね。
人を傷つけることも裏切ることも、誰でもできるんだって。それと同じように、しないこともできるんだって。
だから俺はそういうこと教えてくれたトラちゃんが大事だし、胸張ってダチだって言える。
そんなトラちゃんを傷つけるやつは相手が誰であろうと許すつもりはない」
「……」
キッ、と鋭い睨みを雄樹が志狼に向けた。
志狼は目を逸らすことなく、その瞳の奥から溢れ出る全てを受け入れようと見つめ返している。
「……けど」
そんな状態がしばらくつづいたあと、ふいに雄樹のほうから口を開いた。
「けど、俺のダチのトラちゃんがダチを許すって言うなら、それ受け入れないわけないじゃん? だって、トラちゃんのダチはさ、俺のダチでもあるんだから」
「……ゆうき……」
「だがしかーしっ!」
「!?」
ドンッ!
突然立ち上がった雄樹の足元から鈍い音がした。恐らくカウンターに足をぶつけたのであろう。
ちょうど戻ってきた仁さんが怖い顔をしていたが、今はその怒りを抑えてくれるらしい。
「それとこれとはすこーし、すこーしばかり話が違うのだよ志狼くんっ!」
「……う、うん?」
「しろーも分かってると思うけどさー、トラちゃんって本当っ! 怒らないんだよっ、自分のた・め・にぃっ!」
「……あぁ、うん、そうかもね」
「そう! 玲央さんに対しては怒ったりするくせにさぁ、それ以外は怒んないんだよ! もうっ! ブラコンかてめーはっ!」
「うっせー、ブラコン言うな」
「だーかーらっ!」
ズビシッ!
雄樹が志狼に指をさす。
「今回は代わりに俺が怒ってあげたのよん、しろー君」
「……」
にんまりと微笑む雄樹の顔のこと、顔のこと。
まるで全ての謎を解き明かした探偵……いや、悪戯が成功した悪がきのような笑顔だ。
ふと、仁さんが俺の前にコップを差し出した。あれ? おかしいな……なんか、並々と注がれ……え? 焼酎?
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