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――ドンッ!

「いらっしゃいませー」


そんな少しだけ和んだ場所に、フリルエプロンをつけた、いつもとは違う怖い顔をした雄樹が現れた。
志狼の前になぜかコップ一杯を叩きつけながら、である。


「……雄樹……」

「名前で呼ぶんじゃねぇよ、銀狼」

「……」


俺としてはそのフリルエプロンが場の空気を壊していることを激しく突っ込みたいのだが、あいにくとそんなに馬鹿な俺じゃあない。
隣にいる仁さんにヘルプのサインを送るが、彼はしれっとした態度でナポリタンを作っていた。え、えぇー……。


「俺はアンタがどんな経緯で不良になったとか、んなの少しも興味はねぇけどな、ダチに裏切られたお前がダチ裏切ってんじゃねぇよ」

「……」

「なぁ、救われたか? どうせトラのことだから笑って許してくれただろう? なぁ、それで救われたのか? あ゛?」

「……」


いつもとは明らかに違うその口調が、雄樹の怒りをそのまま表しているのが分かる。
以前、隆二さんたちに見せた怒りとはまた違う、静かに燃え盛る炎のような激情がしっかりと、志狼の体を突き刺していく。


「悲劇のヒロイン気取ってんじゃねぇよ。てめぇの人生くらいてめぇでなんとかしろ。俺のダチを巻き込んで、傷つけんじゃねぇ」

「……うん、分かってる」

「……チッ」


落ち込むでもなく、真髄に言葉を聞く志狼の言葉を耳にした雄樹は、舌打ちをこぼしたあと、志狼の隣に腰を下ろした。
俺は再び仁さんを見るが彼は雄樹を注意することもなく、なぜかコップに焼酎を注いでいた。そりゃあもう、並々と。

そしてそのコップを雄樹の前に置くと、ふたたびなんでもない顔をしてナポリタンを作り上げ、運びに行ったのである。


「……俺もさぁ、昔、ダチっつーか、仲間だと思ってたやつに裏切られたことがある」

「……え?」

「だから、友達なんて口にするやつほど浅はかで、嘘つきなもんはいないって思ってた」

「……」

「けど、トラに会ってから変わった。変えられた」


突然、口調を変えた雄樹が並々と注がれたコップを見つめながら、ポツリポツリと語り出す。
志狼はなにも言わず、その話に耳を傾けていた。




 


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