恐らく翌日、眠っていた俺を叩き起こしたのは大量の冷たい水だった。
どうやらかけられたらしい。そう理解したのは目を開けたとき、目の前でペットボトルを持つ志狼の姿を確認したあとだった。
頬に流れるぶんだけでもと、なんとか舌で舐めとれば、志狼は表情一つ変えずにペットボトルを投げ捨てる。パシャンッと、中にまだ残る水が跳ねる音がした。
「おはよう、気分は?」
「おはよう。最高かな」
「……へぇ?」
おもむろに煙草を吸いだした志狼が、近くにあった錆びついたパイプ椅子を持って来る。
それに座って俺を見下ろせば、その瞳に吸い込まれるかと思った。
「……ありがとな」
「は?」
「最近、ちょっと悩んでたんだよ。けど、志狼がここに連れてきてくれたから、昨日考える時間ができた。ありがとう」
「……うざ」
「ははっ、確かに」
ぐうううう〜……。笑ったことで刺激されたのか、腹の虫が鳴く。
申し訳ない気持ちになって志狼を見れば、やつは冷たい目で俺を見ていた。あぁはいはい、すみませんね。
「お腹空いたんだ?」
「そりゃ、なにも食べてないからな」
「そう」
「うん、でもさ、それも心配する必要ねぇなって思ってる」
「……へぇ?」
「俺、そろそろ帰るからさ、帰ったらたくさん食って飲んで風呂入って爆睡して、んでまた、カシストでお粥作んねーと」
「……はぁ?」
まさかそんなことを言うとは思わなかったのだろう。志狼は怪訝な顔をして、思いっきり俺を見下ろした。
その顔に笑えば、ふたたび腹の虫が騒ぐ。
「小虎さぁ、自分の状況分かってんの?」
「分かってるよ。それより、俺のこと殴ってた不良たちどうした? 全然見ないけど」
「さぁね。今頃叩きのめされてんじゃない? 玲央に」
「そっか……志狼は参加しねぇの?」
「するよ。玲央がここに来たらね」
「ふーん……」
それまでつけていた三角巾を外した志狼が、腕に巻かれた包帯を剥いでいく。
← →
しおりを挟む /
戻る