ピンポーン……。
次の日の正午、家で宿題をしているときにインターホンが鳴った。
昨日の今日でまさか来るとは思わないが、少し慌てながら出てみれば、そこにいたのはケーキの箱を持つ志狼だった。
「志狼? どうした?」
「これ、貰ったんだけど甘くて。でもカシスト休みだから直接来ちゃった」
「そっか、寄ってく?」
「うん、できれば」
「ははっ。じゃあ、どーぞ?」
「おじゃまします」そう言いながら志狼が上がる。
とりあえずコーヒーを淹れるためキッチンに立てば、志狼はケーキ箱をダイニングテーブルに置いて、一言告げてからイスに腰を下ろした。
「元気ないね」
「……え? 俺?」
「うん、なんか悩んでますって顔」
「……いや、別に」
ヤカンをコンロにかける。強火にした炎が激しく燃えている。
ハッとして、すぐダイニングテーブルに灰皿を持っていった。
やはり一言礼を告げた志狼は、なんてことない顔で煙草を吸いはじめる。
「小皿借りていい? 俺はこのままでいいけど、小虎のぶんは皿に乗せたいし」
「あ、……うん」
言われて食器棚から二枚、皿を出して渡した。
ピュイー。ヤカンが叫ぶ。
インスタントコーヒーを淹れ、それを持ってイスに座れば、目の前には皿に置かれたシュークリーム。
「うまそー」
「甘いもの好き?」
「あー、どうだろ。疲れたときにはチョコとか食いたくなるけど」
「疲れたとき?」
「バイト終わったあととか、勉強してて休みたいときとか?」
「あぁ、なるほど」
微笑む志狼に胸を撫で下ろし、俺は目の前のシュークリームに手を伸ばす。
柔らかな生地が、重たいクリームの重力で形が歪む。中身がこぼれ出る前に、素早く口に運んだ。
瞬間、口に広がるカスタードクリームの甘さ。
「ん、うまい」
「そう、よかった」
コーヒーを飲む志狼が微笑む。それにつられて俺も笑えば、ふいに視界がブレた。
あれ? そう思うよりも早く、俺が見たのは相も変わらず、美しく微笑む志狼の姿だった。
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