ピンポーン、ピンポーン……ピンポンピンポンピンポンピンッポーン!
――バァアアンッッ!
「うっせぇババアッ!」
頭が痛い。どうやら二日酔いらしい。
俺は早朝から鳴り響くインターホンの音で目が覚めた。そして自室の扉を豪快に開け放った玲央が、なにやら暴言を吐いて玄関へ向かったらしい。
のそり、布団から這い出てリビングを覗く。玄関からギャーギャー声が聞こえているが、とりあえずまだ朝の五時だ、静かにしろ。
「わぁーったから黙ってろ! すぐ行く!」
「……おはよー」
「あぁ?」
リビングで呆然と立っていれば、寝癖ばっちりな玲央が不機嫌な顔をしてこちらを見る。
ちらりと玄関を覗いてみたが、人の姿はなかった。
「どーしたの、こんな早くから」
「撮影行ってくるから寝てろ。どうせ今日から仁たちいねぇんだろ?」
「え? あー……あぁ。そっか、今日から旅行か」
合点がついて頷けば、玲央は欠伸をしながら自室へ向かった。そのうしろをなんとなくついていけば、面倒くさそうに着替える玲央の姿。
「撮影ってモデルだよな? 今日帰ってくんの?」
「さぁな、飯は自分の分だけ作って食ってろ」
「おー、りょうかーい」
ふわぁあ。欠伸をして背を向けた、ら。なにかにぶつかった。しかも柔らかいし良い匂いがするし……うん?
「へー、これが噂の弟くんねぇ。やだ、君すっごい化粧映えしそうな顔ね〜。ちょっと女装してみない?」
「……え?」
「ババア、なに人んち勝手に入ってんだ」
早着替えを済ませた玲央が俺の後頭部を掴んで引いた。視界に映ったのは、やけにキラキラしている美人なお姉さんだった。す、すごい雰囲気のある人だ……。
「いいじゃないのよ別に、こんな殺風景な家、見ても楽しくないわよ。それより玲央、この子も連れていきましょうよ」
「はぁ? 変なこと企んでんじゃねぇよ、こいつに手ぇ出すな」
「ぷふー! ちょ、玲央! アンタいつからそんな弟思いになったわけぇ!? マジおっかしー!」
「四十過ぎたババアがマジとか言ってんじゃねぇよ、気持ち悪い」
「ちょっと、時代はアラフォーよ、アラフォー」
綺麗なお姉さんと玲央の会話についていけずに固まっていれば、後頭部を掴んでいた手がぐしゃぐしゃと撫でてきた。
「こいつ、泉の母親で、前言ってた事務所の女社長だ」
「……あぁー! 泉ちゃんのお母さん! あ、えと、いつも泉ちゃ、さんにはお世話になってます」
「……やだ、玲央と似てないわねぇ。挨拶できる子だなんて可愛いっ!」
ぎゅむ。泉ちゃんのお母さんに抱きしめられた。ふわりと香る甘い香水の匂いに胸が跳ね上がったんですけれど。
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