「そんときはこいつ、傷ついた子猫みてぇに威嚇してよ。俺に構うな構うなって言うくせに目で訴えてんだよな、助けてって。当然拾ったさ、俺が殴り飛ばしてきた不良どもにそうしたように」
「……はい」
「最初はそりゃ、爪立てて逃げ回ってたね。でも喧嘩でボロボロになった体引きずって、ここに逃げ込んだときがあったんだよな。
そんとき怒ったわけ、自分から傷つきに行ってんじゃねぇよって、もっと自分を大切にしろって。
……それから、だったな。雄樹が俺に少しだけ心開いたのはよ」
空になったグラスをテーブルに置いて、彼は酒を注いだ。溶けて小さくなった氷が、ウィスキーをキラキラと輝かせる。
「んで、それから雄樹はここ来るようになって、そのとき三代目だった玲央たちにも懐くようになって、まー色々あって、俺が嫉妬して雄樹を犯した」
「ごふっ!?」
静かに聞いていたというのに、突然の爆弾発言に口に運んでいた酒が飛び出た。
ゴホッ、ゴホッ。咽る俺に横目で笑う仁さんが、どこか悪い顔をしている。
「で、まぁあとはトラも知ってるように、雄樹も俺のこと好いてくれて、悪口言われてブラックマリアと喧嘩して、俺は雄樹を選んでアイツらを追い出した」
「……」
「ははっ、最低だろ? でもよ、俺にとって雄樹はそんだけ大事なんだよ。他のなに失ったって構わないくらい、雄樹は俺の絶対だ」
「……」
俺に言われているわけではない。もちろん分かっている。だけど真っ直ぐと誇り高く言うものだから、つい顔が赤くなってしまう。
「昔よ、コイツが俺に言ったんだよな」
「……なん、て?」
「アンタがいるから、俺は落ちこぼれじゃない」
照明に照らされたウィスキーが光を反射した。目を細めれば、そこには迷いのない彼の姿が、あった。
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