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*玲央side**


「なぁ、じゃあなんで小虎が望んだことは一々してやってんだよ」

「はぁ? んなのアイツが言ったからだろうが」

「だから。わざわざそれを聞いてやる理由を聞いてんだろ?」

「……はっ」


マジ、胸糞わりぃ。

こうやって自分でも触れたくねぇ場所に、この兄弟はとことん踏み込んできやがる。
そのくせそれを悪いとは思っていない。だからなおさら――質が悪い。


「アイツが俺に兄貴面かませっつったからだよ。それ以上の理由なんて、必要か?」

「――……へぇ」


やけになったわけではない。ただ言ってやらなきゃ引かない豹牙がうざくて言ってやったのだ。
それが本心か嘘かくらいは豹牙にだって分かっているんだろう。だからやつはニヤニヤと、不愉快な笑みを浮かべている。


「いつからそんな弟思いになったんだよ、きめぇ」

「てめぇはうぜぇけどな」


年下のくせしてたいそうな口ぶりをする豹牙に返してやれば、やつは笑いながら扉を開けた。
廊下に出て行くその背を追えば、今度こそオーナールームの前に立つ。


「けどよ、俺が見た限りじゃあ」

「あ?」


オーナールームの扉のノブを掴んだ豹牙が、こちらを見ずに口を開く。


「お前が思ってるほど、弱くはねぇと思うぜ――小虎はよ」


フッ。緩んだ豹牙の口元がすぐ視界から消える。
やつが扉を開けて中に入ったからだ。

むしゃくしゃする。心の中をかき乱されたようで、いい気分ではない。
あぁ、こんなときにアイツの顔なんか見たらきっと、眉間にしわが寄る。そしてそんな俺の顔を見たアイツは必死に取り繕うのだろう。

――兄貴、どうした? なんて、眉を下げて言うのだろう。




 


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