「アイツが、俺の家族だからです」
「……はっ」
鼻で笑った司さんが缶ビールをあおる。そのまま俺のほうへ近寄り、――なにを思ったのかテーブルを蹴り上げた。
驚いて身を引く。次の瞬間、胸倉を掴まれる。グッと視界が揺れて――。
「……んっ……?」
――なぜか、俺は司さんにキスされていた。
唇が触れるだけのそれはすぐに離れていく。呆然と胸倉を掴む彼を見れば、口角を歪ませて笑ってきた。
「分かる? これが男同士のキス。んで」
パッと胸倉から手が離れる。ソファーに戻った俺の体の横を、司さんが思いっきり蹴り上げた。
ビリビリと、ソファーが振動すれば俺の体もその刺激で震えている。
「今のが敵意、暴力」
「……なに、を」
「ねぇ、見ててイラつくんだ、君のこと。知りたいくせに知ろうとしない、そのくせ知ったときには把握で終わり。把握と理解は違うんだよ? ねぇ、分かってる?」
――シン、と。頭の中が真っ白になっていく。
あぁ、どうしようもない。どうしようも、ない。
フッと口角を上げてやった。
「じゃあ教えてくれます? 好奇心でアンタら不良の事情を覗いても、いいですか?」
「……ふっ」
また、司さんが鼻で笑う。そのまま俺の体を覆うように司さんが乗り上げた。
顔面が近づいたと思えば、ふたたび唇が重なる。今度は生暖かい舌まで入ってきやがった。
「んんっ、ん……っ、ぷはっ」
「どーでもいいとか思うわけないじゃん。ねぇ、俺は豹牙が可愛いよ。頼るものなんていっぱいあんのにさ、親だっているのにさ、アイツが頼ったのは誰だと思う? 俺だよ、この俺だ」
「つかっ、んっ、んー……っ」
「……んっ、だから俺はアイツのために警察の麻薬に関するデータをハッキングした。探したよ、お袋を刺した相手をよ。見つけて豹牙の代わりに嬲ってやろうと思ったよ。でも結果は捕まった。ざまぁねぇ」
荒々しく唇を重ねながら、毒々しい言葉を吐き捨てる。
眩暈がする。吐き気を覚える。これが現実なんだと、言葉の刺が突き刺さる。
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