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9 - 1



*玲央side**


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」


いつものようにまとわりつく、子供特有の高い声でアイツが俺を呼ぶ。
顔を殴れば目立ってしまうと悟って、俺はやつの背中や腹を殴ったり蹴ったりしていた。
必死に手を伸ばしてくるアイツの服の下は、誰かが思う以上に酷いことになっているだろう。


「お兄ちゃん」

「……ついてくんな」


舌打ちをして少し早く進めば、やつは「待って」と言いながら必死に追いかけてくる。
角を曲がる。足が進む。少しして、止まって振り返った。


「……」


角の向こうからやつは現れない。諦めたのか、やっと。
どこかでそう安堵しているくせに、俺の足は動かない。


「お兄ちゃんっ」


ひょっこりと、角の向こうからやつが現れた。同時に舌打ちがこぼれる。
すぐ前を向いて歩き出せば、またやつは「お兄ちゃん、お兄ちゃん」とひたすらに俺を呼び、ひたすらに俺のあとを追った。

ハッと息が漏れる。それが一体どんな心情から漏れたのか、今の俺には分からない。




 


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