「暴力に真っ当な理由がない? んなもん当たり前なんだよ! そんなこと分かってて弟殴ってんじゃねぇよ! 我慢してる? んなのてめぇがそうするよう仕向けてきたんだろうが! 体が頑丈になったことも、俺の気持ち乱すのも、全部てめぇのせいだろうが!」
今まで吐き出せずにいたものが溢れだす。
止まりそうにないそれが口から飛び出していけば、俺は後悔とは違う酷い気持ちに押しつぶされそうだった。
悔しい。そう悔しい。
兄貴面かましてみろ、なんて俺が言ったことだけど、でもなんで矛盾をつきつけながらこうやって、わざと俺の気持ちを煽ってくるんだ。
煽るだけ煽って、今こうして吐き出させてくる。我慢を忘れさせてくる。そんな行為に兄貴面≠感じてしまう自分が悔して堪らない。
まるで弟扱いされているような、手放しに喜んでしまう自分がどうしようもなく悔しくて、堪らないんだ。
「謝れ! 今まで俺に我慢させたぶん、謝れよっ!」
「……あぁ、いいぜ」
兄の胸倉を掴む俺の手に、一回り大きな手が重なる。
驚くほど温かいそれに怯んでしまえば、兄の口角は上がった。
「だけど謝るのは、俺がてめぇを認めたときだ」
「――なっ!」
「だから小虎、これだけは覚えろ」
謝罪を求めろと自分で言ったくせに、またこうして自分の価値を押し付ける。
そこにも怒りを感じてふたたび叫ぼうとすれば、それを許さない空気が兄から放たれた。
グッと言い淀んでいれば、兄の表情が無になった。そして――、
「この先いくらてめぇが俺を兄貴だと認めても、いいか小虎、絶対に――俺を許すな」
そして、ただ真っ直ぐと俺に一言、言い放ったのである。
それまで脳内を支配していた感情がどこかへ消え去り、俺は胸倉を掴んだ手をそのままに座り込む。
ぐったりとした疲労感が、あまりにも心地いい。
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