「あれ? うっちーじゃん」
「あはは、りほちゃんだー」
放課後、俺と内山は作戦とも呼べないものを脳内にデスリカへとやって来た。
爆音で流れるロックなのかよく分からない音楽に耳を塞ぎながらカウンターで酒を飲んでいると、やけに露出度の高い女の子たちが内山に寄って来る。
「久しぶりだねー。ずっといなかったからさー、みんな心配したんだよー? 隆二(りゅうじ)たちとかなぁんにも教えてくれないしー」
「そなのー? 俺ね、チーム抜けたからさー」
「えぇー!? ほんとにぃ!?」
肩身の狭い思いをしながら酒を飲んでいると、内山の口から信じられない言葉が発せられた。
思わず内山を凝視していると、話し相手である女の子を含めた彼女たちが俺の存在に目を移す。
「誰ー?」
「ん? トラちゃん。俺の友達」
「トラちゃん? あはは、なんか可愛い〜」
爆弾発言をした内山との話も早々に、彼女たちはやけに光る唇で可愛い可愛いと連発する。
その正体がグロスだと分かっていても、俺には天ぷらでも食ったあとのようにしか見えず、少しばかり気持ちの悪い思いをした。
「ま、いいやー。こうして久々にうっちーにも会えたしー。また来るんでしょ?」
「うん。野暮用でねー。たまに来るよー、多分」
「そっかー。よかったぁ〜。じゃ、またね〜」
ちっとも感情のこもっていない会話を二つ三つ交わしたあと、彼女たちはすぐさま内山から離れる。
俺はニコニコと下手な笑みを浮かべる内山を小突いた。
「なにー?」
「お前、ブラックマリアの一員だったの?」
「ん? うん、そだよー」
「えー……なんで抜けたんだよ?」
「質問攻め? やめてアナタ! 私感じちゃう!」
「……うぜぇ」
話題を変えようとしているのか、内山は馬鹿みたいな反応をするといつものような笑みを浮かべ、頼んでいたスコッチのおかわりを頼んだ。
俺はといえばバイトのことなどすっかり忘れ、内山が兄のチームにいたことで頭がいっぱいだった。
確かに、内山は喧嘩も強く、クラスメートたちも内山には逆らわない。なのにチームなどに入っていないのを不思議に思っていたこともあった。
「ま、色々とねー。あったわけですよぉ、トラさん」
「トラさんって言うな」
しかし内山がしみじみとそう言うので、俺はこれ以上、深く追及することはできなかった。
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