大学3年生 7月
大学3年生 7月
『イケメンアスリート特集!続いてはこちら!男子バレー日本代表の影山飛雄選手です!』
『おいおいおい、めちゃめちゃイケメンやんか!!』
「えっ、ちょっ、テレビ出てるじゃん!!!」
「写真だけな。広報の人が写真提供するっつってた。放送今日だったんだな」
夕食後二人でのんびりテレビを見ていると、前触れなく隣に座る影山くんの写真が現れた。スポーツ番組以外で特集されるようになるなんて、と感慨深い。
驚く私とは対照的に、落ち着いた様子の影山くんは静かに番組を見守っていた。番組内では簡単に彼のプロフィールが紹介され、イケメンポイントなるものがあげられていく。なんだイケメンポイントって。
「カレー好きなのってイケメンポイントなの?」
「さぁな」
自分のことなのに他人事みたいな反応なのがおかしくて、ぷっと小さく噴き出してしまう。
『私すっごい好みです〜!』
『二人お似合いなんちゃう?アタックしてみ!』
『え〜!!影山選手!連絡くださーい!』
「…だってよ?」
「…連絡先知らねぇ。知っててもしねぇけど」
ひな壇の可愛いタレントさんからのラブコールに対して影山くんは意外とドライな反応を見せる。ちょっとは浮かれたりしないのかな。
『続いてはこちらの写真です!』
「あれ、」
カレーの写真に続いて出てきたフリップには、見覚えのある腕時計が写っていた。
『こちら、影山選手お気に入りの時計なんだそうです』
『ほー、ええとこのなんちゃう?』
ええとこの時計などではない。それは、去年の影山くんの誕生日に私が駅ビルのセレクトショップで購入したものだ。学生のお財布で出来るプレゼントはそれが精一杯だった。渡した時も喜んでくれてたけど、こうして改めて気に入っていると示されるのは嬉しかった。
『さて、気になる恋人の存在ですが…』
『おっ!そらおるに決まってるやん』
『いないそうです!』
『チャンスやんか!!』
MCが先ほどのタレントに水を向けると、彼女は『影山選手〜!連絡待ってまーす』と再度影山くんに呼びかけた。
水をぶっかけられたみたいな気分だった。
やっぱり恋人じゃないんだ。不思議はない。何も言われてないもん。でも、家に来るし、度々2人で過ごしていればそうなのかなって期待はする。
それも今粉々に砕かれてしまった。落ち込む私に気づいてか、影山くんがそわそわとした様子でこちらを見た。そして、種明かしでもするみたいに話し始める。
「おい、今の質問な」
「…うん」
「本当は広報の人に『名前と付き合ってます』って答えた」
「えっ!?」
お腹の底から声が出た。今落ちこんだばかりなんですけど。
「でも、公にするのは相手にも良くないって言われて、いないってことになった」
だから気にすんな、と影山くんは笑った。その笑顔に毒気が抜かれていく。
言葉が足りないとか、ハッキリ言ってよとか、思わないわけではなかったけれど、私とのことを公にしていいと思うくらいには考えてくれてたんだと思うと、溜飲が下がる気分だった。
「なぁ、」
影山くんがそっと私の肩を抱く。そしてゆっくり私ごと床に倒れ込んだ。急に色めいた雰囲気になってどぎまぎと心臓が変な音を立てる。
「名前」
私の首筋に顔を埋めた影山くんが、甘えたような声を出した。
影山くんは今やすっかりイケメンVリーガーとして名を馳せていて、その彼が実はちょっと甘えただということは私だけが知っていればいいなぁと密かに思った。