大学2年生 12月


大学2年生 12月

「名前」
「もう上がったの?」
「あぁ」

お風呂から上がった影山くんがタオルで頭を拭きながらリビングに戻ってきた。一人暮らしの部屋だから本当はリビング兼ダイニング兼寝室。普通のワンルームだ。
彼は大きいから、自分の部屋が普段より狭く見える。変な感じだった。

「そうだ。これ」

鞄から取り出した箱を差し出される。反射的に受け取ると、思ったより軽い。おしゃれなリボンと箱に印字されたロゴ。

「牛島さんと行ってきた」
「サトリ・テンドウのチョコだ!!!」
「食いたかったんだろ?」
「ありがとう!めちゃくちゃ嬉しい」

遠征のお土産として渡されたチョコにテンションが爆上がりしてしまう。だって、絶対に美味しいんだもん。現地に行かなきゃ手に入らない貴重なチョコに胸がときめく。大事に食べよう。と冷蔵庫にいそいそとしまった。

「次って遠征いつだっけ」
「しばらくはない」
「そっかぁ」

じゃあしばらくは影山くんにいっぱい会えるね、とつい喜んでしまった。

「名前」
「なに?」

一粒だけ食べちゃおうかな、でもやっぱり勿体無いな、と冷蔵庫の前で悩んでいると影山くんがそばにきた。まだ髪が濡れている。

「影山くん。髪乾かしておいでよ」

チラッと影山くんを見てそう促すと、彼は返事の代わりにタオルを被ったままの頭を私に近づけた。
雑誌で見るよりも、テレビで見るよりも、鮮明な彼の姿が至近距離にある。
触れた唇の熱さは、雑誌でもテレビでも知ることはできない。
ちゅっ、と言う音と共にキスをやめた影山くんは、そのまま無言でドライヤーを取りに向かった。
洗面所から、ガッシャン!とドライヤーが落ちる音がする。

影山くんは、日本代表としてもうすっかり有名人で、私はすでに「隣の席だった」ことと「サインをもらったことがある」こと、あと「一緒にご飯を食べたことがある」ことを周りに話したことがある。それはもう、とても羨ましがられた。
だけど、友達のはずの彼と手を繋いで、時々キスをしている事だけは、誰にも、話すことができないままでいるのだ。


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