イタリア 2月
イタリア 2月
「やる」
その日、飛雄くんは帰宅するなり私に一輪の赤いバラを差し出した。
「どうしたのコレ?!」
私はつい、喜びよりも先に驚きの声を上げてしまう。
飛雄くんがお花を私にプレゼントしてくれるのも初めてだったし、誰かに深紅のバラなんてロマンチックなものをもらうのも初めてだった。
「チームの奴が、バレンタインは男が花を送るもんだって言うから…」
どこか照れ臭そうに視線を横に逸らしながら告げられた言葉にプッと吹き出してしまう。
チームメイトのアドバイス通り素直にバラを渡すところがとても可愛くて愛おしい。かくいう私も、近所のフランチェスカに教えてもらった美味しいチョコレート屋さんのチョコを用意している。
「ありがとう飛雄くん。すごく嬉しい」
嬉しさに任せて彼に抱き着けば、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。
そのぬくもりに、異国での生活で少し疲弊していた心が、満タンに充電される心地がした。もう少しだけ、あともう少しだけぎゅっとしたら、このバラを飾った食卓で、一緒に宝石みたいなチョコレートを食べよう。
そう思いながら、私はまたぎゅっと抱き着く腕に力を込めた。