社会人4年目 12月


社会人4年目 12月


『バレーボール日本代表 影山飛雄の熱愛を独占スクープ!!』

良く見知った名前が躍るネットニュースに、反射的にページを開いた。
熱愛、一体誰と。傷つくと分かっていながらスクロールする手は止まらない。
一時帰国した彼がホテルのレストランで女性と密会していたという記事。近々結婚の予定だと、ご丁寧に写真も載っている。
顔こそプライバシーに配慮してモザイクがかけてあるが、服装はよく分かった。チェスターコートにタイトスカート、ボーナスで奮発して買ったブランドのバッグ。

「…私じゃん」

間違いない。影山飛雄の熱愛相手として写真に納まっているのは間違いなく私だった。なんだ、と気が抜けると同時に、どうしたものかと思案する。こういうときって撮られた人はどうしてるんだろう。

この日、私はホテルの少し敷居の高いレストランへ連れて行かれ、正式に“影山名前”としてイタリアに渡ることをオファーされた。
そう、オファー。プロポーズではない。あの言い方はまるでオファーだった。でも、それが飛雄くんらしいな、と思ってしまう私は、彼が必要としてくれるなら何でも良いんだろうなと思えた。惚れた弱みというやつだ。
スマホ画面をスクロールしていると、画面がパッと切り替わり着信を告げた。

「もしもし」
『俺だ』
「どうしたの?」
『…この間、飯食いに行った時の写真撮られちまってた』

悪いお前の写真も載ってる、とバツが悪そうに飛雄くんが告げる。

「今ちょうどその記事見てた」
『早ぇな』
「飛雄くん関連の記事は見るようにしてるから」
『そうか』

まんざらでもなさそうな声。照れているのかもしれない。

『返事、聞く前に表沙汰になっちまったな』
そう言われてドキッとした。
「俺と結婚してイタリアに来ねぇか」

そう言われた時、私はすぐに頷けなかった。いい場所だとは思うけれど、経験のない海外での生活。アスリートの彼をサポートするということ。家族や友人と離れる寂しさ。そういった不安が、その場での承諾を躊躇させた。

「考えさせて欲しい」

そう言った私に、彼は「わかった」と珍しく緊張した面持ちで頷いたのだった。

「表沙汰になって、やっと決心着いたかも」
『ん?』
「私、イタリアに行く。飛雄くんの家族になる」

うじうじしたってしょうがない。こうなったからには思い切ってやってみようと思えた。

『おう』

そう答えた声が嬉しそうで、顔は見えないけれどきっと声と同じく嬉しそうな表情をしてるんだろうなと想像がつく。

飛雄くんは、相変わらず日本代表の中心選手で、こうして熱愛記事を出されちゃうくらいには注目を集めていた。クールでカッコイイなんてファンの人に言われたりしてるけど、その実、割と末っ子気質なことはあまり知られていないように思う。朝、私が先にベッドを出るのを引き留めるような、そんな彼の可愛いところをこれからも一番隣で見つけていきたい。 

おわり


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