社会人2年目 10月
社会人2年目 10月
ジュワッ!と熱されたフライパンにオリーブオイルが投入される。こういう時の音ってどこの国でも同じなんだなぁと感慨深く思ってしまった。
七時間の時差と飛行機で十数時間の距離を超えて、日本にいる私へお届けされているのは飛雄くんのお料理タイム。名付けて飛雄‘sキッチンだ。最近自炊を頑張っているらしいけど、どうにもまだ手つきが怪しいときがある。ハラハラしながら様子を見守っていると、画角の外からフライパンの上に鶏肉とブロッコリーが放り込まれる。
「えっ!同時!?」
「ダメなのか?」
「ダメ…じゃないと思うけど…鶏肉先の方がいい気がする。ブロッコリー意外と火が通るの早いし」
あんまり火を通し過ぎると栄養素逃げちゃうよ、とつい小言めいたことを言ってしまう。
こうやって世界中どこにいてもビデオ通話ができるのってありがたいことだとおもう。遠くにいる恋人とも、こうして傍にいるみたいに話ができるのだから。技術の進歩に感謝している私に、焦げ付かないようにフライパンの中身をかき混ぜる菜箸の持ち主が話しかける。
「俺に飯作る時栄養素とか考えてくれてたんだな」
「…そりゃそうだよ。日本代表の体に入るものなんだもん」
素人なりに勉強して工夫はしていた。
飛雄くんは何故か黙りこくってしまい、お互い無言でフライパンに降り注ぐハーブソルトを見つめる。パチパチとフライパンの上で食材に火が通っていく音が大きく聞こえて、無言を余計に強調させた。
「こっち…一回来てみねぇか」
「イタリアに?」
唐突なお誘いに上擦った声が出た。彼が暮らす永遠の都へ私はまだ足を踏み入れたことが無い。
「ん〜、お休み取れないことは無いけど…。急にどうしたの?」
不思議に思って尋ねると、ブロッコリーと鶏肉炒めをお皿に盛り付けながら飛雄くんが途切れ途切れに答える。
「こっち…来てみないと、わかんねぇだろ。その、こっちで暮らしていけそうかどうか、とか」
ころん、ブロッコリーがひとつフライパンから逃げ出した。私の心もころんと揺れる。
「…私、イタリアで暮らすの?」
「…近い内にとは思ってる」
イタリア語第二言語で選んどくべきだったなぁとその時初めて思った。簡単な挨拶と、昔友達に聞いた「トイレどこですか?」しか知らない。
飛雄くんは、イタリア生活も随分板についてきて、言葉もそれなりに身に付き始めている。相変わらずバレー選手としても特集を組まれるくらいに話題で、セッターとして他の追随を許さない。(本人曰くすごい人は他にもたくさんいるそうだ)
「ねぇ、顔見せてよ」
私ばっかりずるい。と拗ねたように言ってみせると、しぶしぶといった体で今日のランチと一緒にダイニングテーブルへと落ち着いた飛雄くんが顔を見せてくれた。その時の彼が、照れた顔でどのくらい唇をつんとさせていたのかは、私だけの秘密にさせて欲しいなぁとひっそり微笑んだ。