魔法の三角形



なんとも美しい三角形だと思う。

お皿の上に置かれた白い三角形は、実に魅力的な姿でそこに鎮座していた。
固すぎず柔らかすぎず、頬張ればほろりと解ける絶妙な握り加減のおにぎり。

きっと「ちゃんと米」の甘みと同じく、具のほぐした焼き鮭の塩っけもたまらなく美味しいに違いない。
ここに至るまで治はいったい何個のおにぎりを作ったのだろう。そんな風に、彼のこれまでの積み重ねに想いを馳せてしまうほど、治のおにぎりは美味しかった。

「俺は名前のおにぎり好きやけどなぁ」

治はいつも意外なほどに私の作るおにぎりをほめる。
どこか不格好なずんぐりむっくりしたおにぎりを、嬉しそうに眺めながら食べるのだ。

「潔く梅干しどーん!っと入ってんの好きやで」
「ほんまに褒めてんのそれ」
「当たり前やん」

ふふ、と笑う治はほんの2、3口でぺろりとおにぎりを平らげてしまった。やっぱり、私の手で握ると小さくなってしまう。

「治のおにぎりは全部美味しいなぁ」
「まぁ生業やしな」
「どれ食べても最高って思うねん」
「作り手冥利に尽きるわ」

嬉しそうに、そして照れ臭そうに笑いながら、治は私が作ったもう一つのおにぎりに手を伸ばす。

「お、ええ塩加減」

美味い、と治があんまりにも嬉しそうに笑うから、私もつられて微笑んでしまった。

相手が嬉しいと自分も嬉しいと思える相手に出逢えるってすごいことなんじゃないかと思う。

もぐもぐとおにぎりを食べる治にピッタリくっついてみると、空いてる方の手でグッと腰を抱かれた。
なんていうか、そばにいることを許されてるってすごく嬉しい。胸がぎゅうっと締め付けられるような愛しさに襲われる。

もっと美味しいおにぎりを握れるようになりたい。治に喜んでほしい。

彼もこんな気持ちで毎日お店に立っているのだろうか。目の前の人を喜ばせたいと言う気持ちで。

好きでやってることだと彼は言うけれど、中々に大変なお仕事だと思う。作るだけじゃなくて、メニュー考えたり、仕入れ先と交渉したり、収入と支出のこと考えたりと、やることは山ほどあるんだもん。生半可な気持ちではやっていないと思う。

治はいろんな人のためにおにぎりを握るけど、私は治のためだけにおにぎりを握りたいなぁと思う。
治はみんなを笑顔にするけど、私は治だけを笑顔にしたい。そんなのってわがままだろうか。

治は相変わらず私作成のおにぎりを嬉しそうに頬張っている。

「なんで名前のおにぎり美味いんやろなあ」
「なんでやろな」

恥ずかしいから、「愛情がこもってるからだよ」とは流石に言わないでおこうっと。


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