アオハルのキミ

雪がちらつく空を見上げながらバスを待っていると、誰かが雪を踏みしめながら歩いてくる音がした。
誘われるように音のする方を見ると、特徴的な瞳と目があう。瞬間、ぎくり、とまるで悪いことをしている場面を見られたみたいに体が固まってしまった。

「ぁ…えと…」
「よぉ、珍しいな。こんなとこで会うの」
「そ、だね」

彼は、ぎこちない私の様子など気にしていないのか至って普段通りに見える。
部活の上着?みたいな、暖かそうなコートを着た星海くんは、そのまま「よっこらせ」と私の隣に腰掛けた。

え、なんで隣に?!と混乱する私に星海くんは「さみぃよな今日」と当たり障りない会話を続ける。あぁ、無かったことにされたのか、となぜか残念に思う自分がいた。あんなに忘れて欲しいって思ってたのに、いざそうされると気に入らないなんてなんて自分勝手なんだろう。

それもこれも、全部ワタナベ君のせいだ、と私は自分のつま先を睨みつけた。

それは、なんてことない会話だった。昼休みに女子が数人集まれば、恋バナだって始まる。
「誰がかっこいいと思う?」と言う質問に、みんな自由に答えていた。背が高くて物腰の優しい昼神くんだとか、テニス部の王子なんて呼ばれてるササキくんだとかの名前が上がる中、私は「星海くんて、カッコいいと思うの」と言ったのだ。

「星海?」
「うん」

恋愛とは言い切れないが、彼の真っ直ぐさと向上心はとてもかっこいいと思っていた。だから、素直にカッコいいと思うと打ち明けたのだ。
しかしタイミングが最悪だった。

私たちの話を、近くにいたワタナベくんが聞いていたのだ。お調子者のナベちゃんでお馴染みのワタナベくんは、どうにも賑やかしの気があって、言わなくてもいいことを言って波風を立てる。そして、悲しいことにターゲットになったのが私だった。

「へぇ、苗字って星海好きなんだ」
「え?」
「ちょ、ナベ!首突っ込まないで」
「好きじゃなくてカッコいいなって話だし」

友達は口々にワタナベくんに釘を刺すけど、もう遅かった。
教室に戻ってきた星海くんを見たワタナベくんは「おーい!星海!苗字がさ、お前のことカッコよくて好きだってよ!」と言ってしまったのだ。

最悪だった。私は全身の血が顔に集まるような熱さを感じながら俯いた。
もう何を言っても無駄な気がした。友達の怒る声もなんて言ってるかわからない。
とにかく、ワタナベくんは女子に袋叩きにされ、廊下に蹴り出されていた。私は結局最後まで星海くんの顔なんて見ることもできず、ただ机に突っ伏して存在を消すしか出来なかった。

そして放課後である。今日の出来事だと言うのに、星海くんはケロッとしている。
無かったことにしてくれる優しさが、嬉しくて痛い。
ブロロロロ、とバスのエンジン音が近づいてくる。スクッと立ち上がった星海くんが「あのさ!」と私の方を向いた。

「苗字がカッコいいって言ってくれたの嬉しかったぞ!」
「…え」
「ありがとな!」

ニカッと笑う顔に、もやもやしたものや悲しい澱んだ気持ちが一気に浄化されたような気持ちになる。

バス停に停車したバスに、星海くんが乗車する、そして振り返って「早く来いよ」と手を差し出した。
私は慌てて彼を追うようにバスに乗る。そしてつい星海くんの手を取ってしまった。
ハッとして慌てて手を離すと「乗らねーのかってびっくりしたわ」と星海くんは座席に座った。
なんとなく流れで隣に座る。

心臓がドキドキと、さっきまでとは違うリズムを奏でていた。
どうしよう。私、星海くんのこと、本当に好きになっちゃったかもしれない。


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