蓼食う虫も何とやら

「今シーズンは露出を減らす方針なの?」
「は?」

私の質問に、彼は答えでなく怪訝な視線を返した。

「ほら、サポーター増やしたじゃん?肌の露出面積減らしたなーって思って」

言葉を補うように発言の意図を説明すれば「気持ち悪い言い方するんじゃねぇ」となめくじでも見るような顔をされる。
そんな顔しなくても、とムカッとした私は、言うまいと思っていた彼のサポーター姿についての感想を声に乗せてしまった。

「なんか、両腕・両脚のサポーターってさ、モンゴル相撲みあるよね」
「………」
「ったぁ!!!?」

私の発言に対して無言という名のフルシカトをかますかと思われた聖臣だったが、その体格に見合った大きな手で私のこめかみを掴んだ。そう、アイアンクローだ。

「あだだだだ、ごめんなさい!もう言わない!」

万力もかくやという力で痛めつけられた私は即座に謝った。すると、聖臣もあっさり手を放してくれる。

「いたい…」
「チッ」

舌打ちしやがった!と、聖臣の態度にまたむかっ腹のたった私は、スマホをひっつかみメッセージアプリを立ち上げる。そんな私に聖臣は滔々とサポーターが如何に怪我防止に大切なのかを説明し始めた。聖臣の声をBGMに彼の従兄弟である元也くんに『今年の聖臣の装備モンゴル相撲っぽくない?』とメッセージを飛ばす。すぐさま既読がついたかと思うと、元也くんから爆笑しているコツメカワウソのスタンプが送られてきた。心なしか送り主に似ている気がする。
それを見て気が晴れた私に、何を思ったのか聖臣が「…どちらかと言えばお前の方がモンゴル相撲に近いからな」と言う。

「私サポーターとかしてない」
「二の腕、腹・腰回り、肩甲骨周り、太もも…」
「わーっ!聞きたくない!!!」

聖臣が唱え始めたのはザラキーマ並みの死の呪文だ。悲鳴をあげながらソファーに倒れ込むと、聖臣が「ふん」と言うのが聞こえた。
聖臣が並び立てたのは私が最近気にしている部分。つまり肉付きが良くなったところ。

「ひどい…幸せ太りなのに」
「太るな」

目を潤ませていったセリフは取り付く島もなくバッサリ切られた。

「どうせ嵩が増すなら胸が良かった…」
「何言ってんだお前」

呆れたようにこちらを見降ろす聖臣の無駄に硬い腹筋を指でつつきながら「大きくなんないのは聖臣のせいだよ。ちゃんと揉んでるの?不十分なんじゃない?」と言いがかりでしかないことをぶつける。
しばらく黙っていた聖臣だが私の、「ワンサイズくらい上げてみせてよ。むっつり聖臣ぃ」という言葉を聞くなり腹筋を触りまくっていた私の腕を掴んだ。

「…聖臣?」

やおら聖臣が動く。そして私のパジャマに手を伸ばし、思いっ切り捲りあげた。

「わー?!」
「出せ、そんなに言うなら揉んでやる」
「いや、ちょ、冗談だって」

まずいと思った。ワンサイズ上げることを“始め”られてしまったら、結果が出るまで続くに違いない。しかし、私の抵抗も虚しく聖臣の手がしっかりと胸を捉えた。そして甘い空気など一切漂わず、ただひたすらに胸部を揉みくちゃにされたのだった。
最悪だ。終わらせるには適当にワンサイズ大きなブラでも買って「大きくなりました!」とホラを吹くしかない。バレたらシバかれる予感しかしないけども。
ちなみに、モンゴル相撲の写真を検索したところ意外と似ていなかった。人の記憶って曖昧だ。なーんだ、と暢気にブラウザに表示されたモンゴル相撲の写真を消した私は、すっかり元也くんに余計なことを吹き込んだことを忘れていた。

不幸にも私のモンゴル相撲呼ばわりは元也くんから広まってしまい、同じチームの宮選手の耳に入ったらしい。
ある日の練習で「なんや臣くん、そのサポーター姿嫁さんに“モンゴル相撲”言われとるんやって?」とからかわれ、それを聞いた木兎選手に「えっ、なに?!オミオミ相撲すんの?勝負!」と絡まれたそうだ。
そして私は最っ高に不機嫌な状態で帰宅した聖臣に、またもアイアンクローをお見舞いされる羽目になったのだった。


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