ふいうち
「う゛、うぅ…!あ゛っ!!」
「おい、大丈夫か」
唸り声をあげてプランクをする私に彼が呆れ混じりの視線を寄越す。
「腰反ってんぞ」
もうちょい上げろ、とさすが本職としか言えないアドバイスを頂く、言われるまま微調整するけど、グッと負荷が増して口からもっと呻き声が漏れた。
「ぐぅ、うぅ」
携帯から美しい体型をしたトレーナーの先生が「後10秒!」と激励を送ってくれる。
あと、7、8、9、10…。
「あぁーっ」
どさり、とヨガマットの上に倒れ込む。
「お疲れ様でした!」という朗らかの先生の声に、へろへろの声で「おつかれさまでした…」と返事をした。
ここ最近、寝る前のルーティーンとして、動画サイトに公開されている美ボディメイクのトレーニングに励んでいる。
アスレティックトレーナーを生業としている夫は「好きにしたらいいべ」と特に干渉はしない方針のようだった。たまにアドバイスはくれるけど。
今までろくに運動をしてこなかったツケか、たった15分ほどの動画をこなしただけでヘロヘロだ。もう動けない気分。
自分でも引き締まってきた気はするから、続けていこうと思っている。
特にお尻なんかは「鍛えたら鍛えただけ結果が出る」と言う美容賢者の言葉を実感している。タイトスカート履くのが楽しくなった。
「バテバテじゃねえか」
「…きつい」
「なんで急にそんなの始めたんだよ」
特に気にしてなかったべや、と風呂上がりのミネラルウォーターを飲み干したはじめくんがこちらにやってきた。
だって、私はすっかり代謝が落ちて食べたら食べた分だけぷにぷにしていくのに、はじめくんったらお仕事柄何年経っても引き締まった素敵な体をしている。横に並んだ時私だけ弛んだ体してるのなんか嫌なんだもん。
「はじめくんは、引き締まってるのに私だけぷよぷよなのなんかやだ」
「あ?そんなこと気にしてんのかよ」
気にすることねぇ、と漢気溢れるお言葉を頂けたけど自分が納得いかないんだから仕方ない。
「だってはじめくんに綺麗な体見てもらいたいし。それに、だいぶ成果出たと思わない?」
ヨガマットの上で転がったまま、そばでヤンキー座りみたいになってるはじめくんに問いかける。すると、上から下まで視線を巡らせた彼は「まぁな…」と何か含みを持った返事。
「最近ピタッとしたスカート履いてる時尻がキュッとしてんなとは思った」
「でしょ?!」
思わずガバッと起き上がる。いけない、くらっとした。
「でも、あんまあれで出かけて欲しくねぇな」
「なんでよ」
はじめくんは、頬を人差し指でかいて「外で誰に尻見られてっかわかんねぇだろ」と低い声で言う。
「えー、誰も見てないよ。タイトスカートかっこいいし履きたい」
ゴロンとまたヨガマットの上にうつ伏せになる。心配は嬉しいけどオシャレ欲のほうが僅かに勝っちゃう。
「お前最近可愛いから心配」
「わっ」
ぺしん!と弱い力でお尻をはたかれる。衝撃に驚くけど、もっとびっくりすること言ってた気がする。
「なんとおっしゃいました…?」
「あ?可愛い」
「ひぇ…」
出会った頃はそんなこととても言えなかったくせに、年月が経ったことで免疫が出来たらしいはじめくんは最近こうして素直に褒めてくる。可愛いを使いこなすな!岩泉一!!心臓がおかしくなるだろ!
「痩せてるから可愛いってわけじゃねえけど、俺のためにって頑張ってんのは可愛いな」
「やめて!ライフが0になる!」
「どういう恥ずかしがり方だよ」
ぎゃあ!と縮こまる私の上に、よっこいしょ、とはじめくんが覆い被さる。ん?何をしてらっしゃるの。
「な、なに」
「成果見せてくれんだろ」
にやりと笑ってはじめくんがTシャツの裾をめくりあげる。
「わ、ちょっと!」
「おー、確かに締まってきたな」
「ふ、ちょ、くすぐった、ふふ」
確認するようにお腹の上を厚みのある手が這う。くすぐったくて身を捩ってしまった。その隙にもう片方の手がお尻を無遠慮に掴む。そのままむにむにと揉まれた。
「お、エロい」
「ばっ、」
「おら、バンザイ」
「わ、っぷ」
めくりあげられたTシャツを頭から引き抜かれる。
「で、運動も終わったことだし俺とも運動してくれ」
「た、体力の限界なので勘弁して下さい」
怪しい動きをし始めた手にさっきとは違う理由で身を捩らせながらお断りするも、「もっと可愛いところみせろ」と唇を塞がれた。
へろへろの体力でがっちりした二の腕をバシバシ叩くと、ちゅっちゅと、可愛らしく上の唇を吸われる。そうされるともう片方もそうしてくれないかな、と思っちゃうのが乙女心というもので、つい、強請るようにはじめくんの下唇をちゅうと吸ってしまった。
「ノリ気じゃねーか」
ニッと笑ったはじめくんに、しまった!と思うも後の祭り。簡単に足を割られてしまう。
もう!ヨガマット汚れたら、ちゃんとはじめくんが洗ってよね!