うっかりワンナイト

やってしまった、ということはもうその物事は完結しているということで、今更どうしようもないのは明白だった。
鈍痛に苛まれる頭を押さえながら、名前は自分が置かれた状況を理解しようと必死になっていた。
自分が寝ていたリゾート風の天蓋付きのベッド。ぐるりと部屋を見渡すと、大きなテレビ、ソファー、ベッド脇のやたらとボタンの多い照明と避妊具が目に入る。明らかにそういうホテルだ。そして裸の自分と同じベッドでスヤスヤと眠る顔見知り程度の関係性の男。倦怠感と違和感の残る体。
状況は明らかにクロだった。

暖かな室温とは裏腹に、状況を理解していく度に体温が1度ずつ下がっていく様な心地がしていた。なんでこうなったんだっけ、と名前は記憶の糸をたどる。

「雪絵ちゃあん…」

名前の口から情けない声が漏れる。その人にすがりたいと言わんばかりに。そう全ては、同僚である白福雪絵の一言から始まった。


「名前〜、今度バレー見に行かないー?」
「バレー?」

賑やかな昼休みの社員食堂。そのお誘いに名前はキョトンと目を丸くした。同期入社の二人はそれぞれ栄養士と事務として勤務しており、職種は違えど気が合った。なのでこうして時折ランチを一緒に過ごしている。
その仲良し(彼女は勝手にそう思っている)の雪絵から出た言葉を名前は不思議に思う。食べっぷりの良い彼女に誘われるなら、ホテルビュッフェの方がしっくりくる。

「別に大丈夫だけどなんでバレーなの?」
「んっとね、私高校の時バレー部のマネージャーしてたんだよね。その時の同級生が今バレー選手してて、今度東京で試合があるんだってチケットもらったの〜、〇日なんだけどー」

説明しながらも大盛りのパスタがスイスイ消えていく。いつ見ても気持ちのいい食べっぷりだ。

「へぇー、そうなんだ」

運動部だったなんて意外だ、趣味と実益を兼ねて調理部とかに入ってそうなのに、と思いつつ名前は並盛のパスタを口に入れる。雪絵の食べっぷりを見ているだけで満腹になりそうだった。
正直スポーツ観戦に対して興味はない名前だが、雪絵が自分を誘ってくれたことが嬉しかった。

「行ってみたいな」

名前の返事に雪絵がほっとしたように笑う。

「良かった〜」

じゃあ、決まりねー。とおっとり言う雪絵に名前はひとつ頷いてみせた。雪絵ちゃんとお出掛け楽しみだな、と心が躍る。何着ようかな、と早速考える名前は、あのスカート買っちゃおう、とスマホの画面に指を滑らせたのだった。


「ゆ、雪絵ちゃん、これって男子の試合なの?」
「そうだよー」

そして迎えた観戦の日、名前は会場につくなり度肝を抜かれていた。てっきり、女子の試合なのだと思っていた。しかし会場についてみればどう見ても男性の選手たちがコート内で準備運動などをしている。
名前はおにぎりを大量購入する雪絵に駆け寄り、慌ててその真偽を問うた。

「雪絵ちゃん男子のマネージャーだったの!?」
「うん。あれ?言ってなかったっけ〜」

思い出すような素振りを見せながら、雪絵は店員からおにぎりがパンパンに詰まった袋を受け取る。

「ここのおにぎり美味しいから食べたほうがいいよ〜」

その笑顔につい名前もおにぎりを購入した。店員さんがイケメンで挙動不審になってしまったのはご愛嬌だ。
席に座り早速おにぎりを頬張る雪絵を横目に、名前は一人思案する。こんなに可愛い雪絵が思春期の男子の中にいたなんて信じられなかった。毒牙にかかったりはしなかったのだろうか。いや、きっと無事でいてくれたに違いないと勝手な想像を膨らませる。
勝手に雪絵の学生時代に想いを馳せる名前に雪絵は「あ、あれあれ、あの元気なのが同級生〜」と賑やかな方向を指差す。名前がそちらに視線を向けると、色素の薄い髪を逆立てた男が元気よく準備運動をしていた。準備運動から元気で試合中持つんだろうか、と心配になってしまう。

「…元気、だね」
「ふふ、そうでしょー」

そういって笑う雪絵は、まるで弟を見守る姉のようで、そんな慈愛の籠った視線を向けられる彼を、名前は少し羨ましいと思ってしまった。もぐ、とおにぎりを口にすれば丁度良い力加減で握られたお米がほろ、とやさしく崩れる。お米の甘みと塩加減。そして具のマリアージュ。おしゃれに表現しようとしたが、平たく言えば美味しい。流石雪絵が褒めるだけはあるなと名前は2口、3口と食べすすめる。その内会場が暗転して、選手入場が始まった。
雪絵の同級生は「ぼくと こうたろう」と言うらしい。ぼくとってどう書くんだろうと名前は首を捻ったがいまいち思いつかなかった。
木兎は(雪絵が木に兎と書くのだと教えてくれた)試合中も準備運動と変わらずにエネルギッシュさを感じさせる選手だった。全身から試合を楽しんでいると伝わってくる。その姿に自分までワクワクしていることに名前は驚いた。見ている人を元気にする。そんな人がいるんだとちょっと感動的だった。
試合は木兎のチームが勝利を収めた。それなりの時間が経ったはずだったが、体感はあっという間だった。それだけ夢中で見てたんだなぁと名前はぼんやり考える。

「名前こっちー」

試合後、言われるまま雪絵についていけば、なにやら選手たちの前に人だかりができていた。雪絵が「サインもらうんでしょー?」と名前を木兎の方へ促す。てっきり女子選手の試合だと思っていた名前は、せっかくだからとサイン色紙を買ってきていたのだ。

「えぇ…いや、その」

だって思ってたのと違うんだもん、と思ったがここまで来たら引っ込みもつかなかった。

「木兎〜」

雪絵が声をかける。こっちをむいた木兎が嬉しそうに笑った。

「ゆきっぺ!来てくれたんだ」

「うん。あ、こっちは私の友達、苗字名前。名前、これが私の同級生。木兎光太郎ー」

遠目に見ても大きかったが、近くで見るとますます大きい。木兎は「名前ちゃん?俺木兎!よろしく!」と元気に言ってにかっと笑った。その笑顔に目がちかちかするような心地に襲われつつ、名前も「よろしくお願いします」と折り目正しく挨拶を返した。
名前が持つサイン色紙に気がついた木兎は快くサインを書く。そのサインも元気いっぱいで、名前は思わずクスリと笑ってしまった。チームメイトの中におにぎり屋さんとそっくりな顔を見つけて驚いたが、木兎が「ツムツムとサムサムは双子!」と説明してくれた。なるほど双子ならこれだけ似ていても頷ける。変わった名前だなぁと思ったが、きっとキラキラネームってやつなんだろう、と片付けた。その後、雪絵と木兎が久しぶりに食事でも、という話をし始め、名前も一緒にどうかと誘う。それを固辞しようとしたが、結局押し切られ、なぜか雪絵お気に入りのお店で3人で乾杯することになってしまった。

「ゆきっぺ昔っからすげー食べんの!」
「そうなんだ」
「木兎だって食べるじゃんかー」
「ゆきっぺ俺以上じゃん!」
「雪絵ちゃん昔からいっぱい食べてたんだねぇ」

わいわいと昔話に花を咲かせる二人はとても楽しそうで、名前もつられて楽しい気分になる。
実際雪絵の学生時代の話を聞くのはとても楽しかった。大好きな友達のことを知るのは嬉しい。大人になっても大好きだと思える友達に出会えるなんて思わなかったなぁと名前はお酒を喉に流し込んだ。
その内ふと、ある考えが頭を過る。もしかしたら、木兎は雪絵が好きなのではないかという疑惑だった。わざわざチケットを渡して、試合後も食事に誘うなんて怪しい。仲が良さそうな二人の様子と、お酒の力も相まって名前の中ではその疑いが確信に変わりつつあった。そして、もしかしたら雪絵も、憎からず思っているのかもしれない。

「名前ちゃん!試合どうだった?」

思考を元気な声に遮られて、名前はぱちくりと瞬きする。

「あ、っと、すっごい迫力だった。月並みなんだけど本当にかっこよかった、です」
「そっか!」

名前の小学生みたいな感想を聞いて木兎は嬉しそうに笑う。また東京で試合するときは来てよ、と言われ名前は思わず「うん」と頷いてしまった。
なんというか、こちらを引き込む力のある人だ。そしてお開きになる頃には名前の携帯に「木兎光太郎」の連絡先が増えていた。まぁ使うことも無いだろうとは思いつつ、二人と別れる。その日のうちに木兎から「今日はありがと!」というメッセージが来て、「律儀だな」と印象を少し更新しつつ名前も返事を返したのだった。

意外なことにぽつりぽつりと二人の交流は続いた。大阪にいる木兎から、時折たこ焼きの写真だとか、遠征先の景色だとか、はたまたシンプルに朝の挨拶だとか、折に触れて連絡が来る。最初は戸惑っていた名前も、そんなことが続けばいつしか慣れて、自分も雪絵と食べたケーキや道端で見かけた野良猫と雪絵のツーショット写真なんかを送っていた。木兎と雪絵の間を取り持つような気持ちがなかったわけではない。
だけど、どこか純粋にやり取りを楽しんでいた。

そんな木兎からもっと意外な連絡がきたのは春と夏が混じり合う季節のことだった。なんでも東京へ来る用事があるらしい。試合などではなく実家に用事があるのだという木兎は「二人で飯行かねぇ?」と送ってきた。
名前は「もしかして雪絵ちゃんのこと?」と尋ねる。すると「そんな感じ!」とメッセージが返ってきた。いよいよ大詰めか、と彼女はその申し出を快諾した。木兎とのやり取りの中で彼が充分信用に足る人物だとわかった。雪絵のことも安心して任せられると思うくらいに。二人が上手くいったら嬉しい。胸に宿るこの一抹の寂しさは、きっと雪絵を取られてしまうような気分だからに違いない。そう思った名前は、お気に入りのスカートをクローゼットから出した。

当日、彼女が木兎に指定されたお店の入り口をくぐると、すぐに木兎を見つけた。 

「お、こっちこっち」
「こんばんは」
「うん!久しぶり」

少し緊張して強張っていた肩が、その笑顔で脱力するのを感じる。良くも悪くも人の警戒心を解くのが上手い。それが意図してやっているのかは知らないが。

「何食べる?」

スッと木兎がメニューを差し出す。俺のおすすめはね、と説明してくれるのが迷いやすい名前にはありがたかった。

「じゃあそれにしよっかな」
「おう。すいませーん!」

前にも思ったことだが、案外率先して動いてくれる人だ。注文や取り分けを当たり前に女の仕事と思っていないところに好感が持てた。

「昔ゆきっぺのノート返し忘れてめちゃめちゃに怒られたことあってさー」
「あはは、そうなの?」

お酒の力も手伝ったのか木兎と話すのはとても楽しかった。雪絵の話題が多かったからなのかもしれない。楽しいとお酒がすすむ。
名前はすっかり本題を聞くことも忘れて飲みすぎてしまった。




「やばい…」

友達の想い人?と酒の勢いで関係を持ってしまった。青ざめるには充分だった。
いまだ鈍痛が続く頭がぼんやり覚えているのは、いつしか雪絵のことなどすっかり忘れて、お店を出て木兎の顔が近づいた時にうっかり瞳を閉じて応えてしまったことと、その勢いのままホテルに行きどの部屋がいいかと遊びに来たみたいにワイワイ選んでしまったことだった。部屋に入ってからも、なんだかんだと話をしながら服を脱ぎ、そのたくましい体に腕を回したことを覚えている。

おおよそ、その行為に対する感想としては不適切な気もするが、終始楽しかった。楽しかったってなんだよって感じだろうが、確かに楽しかったのだ。はぁ、とため息をついて項垂れると簾の様に髪が下がる。一時的に視界をシャットダウンしてくれて少し冷静になれた気がした。幸い木兎はすやすやと寝息を立てている。
古今東西、一夜の過ちの後は逃げるものじゃないだろうか。三十六計逃げるに如かず。
そう結論付けた名前は急いでベッドを降りた。正直シャワーを浴びたかったけどそれどころじゃない。ソファーに丁寧に置かれていた服を手に取る。そこに意外性を見出してしまった。イメージ的に放り投げそうなのに、と。彼女はスカートのジッパーを上げ終えてふぅ、と一息つく。そしてカバンを手にそおっとドアに向かった。会計は入る時に済ませているから大丈夫だろう。そしてドアノブに手をかける。

「あれ…」

開かない。
名前はパニックに陥った。なぜ開かないのか、それがわからない。力加減?と思い優しく触ってみたり強く触ってみたりしたがなんの意味もなかった。早く出ないと木兎が起きてしまう、と必死だった。

「名前ちゃん…?」
「あっ、」

ガチャガチャうるさくしていれば当然のことながら木兎が目を覚ましてしまった。
下着だけを身につけた木兎がゆっくりベッドを降りてくる。朝だからだろうか、髪もおりていて、それが彼を少し幼げに見せていた。

「何してんの」
「え、その、」

何と言ったものかと目を泳がす。言い逃れはできそうにもなかった。

「その、帰ろうかなって…」
「なんで?やだった?」

淡々と聞いてくる木兎はやけに落ち着いていて、その様子が余計に名前を焦らせる。

「…なかったことにしたほうがいいと思う」
「なんで?」

なんで?ってなんでそんなこと言えるのと心底不思議に思った。
雪絵ちゃんのこと好きなくせに。

「木兎くんは雪絵ちゃんのこと好きなんでしょ?」
「えっ!?俺ゆきっぺのこと好きじゃないよ!?」
「えっ!?」

お互い早朝にふさわしくない声量の声が出た。てっきり雪絵のことを好きだと思っていた名前は混乱する。

「なんでそうなんの!?」
「だ、だって、昨日だって雪絵ちゃんのことで話があるって…」
「あ〜、なんかそんなこと言った気ぃするかも」
「えっ嘘なの?」
「それは…まぁ正直名前ちゃんと会うための口実っていうか…」

急に照れたようにそう言われて、彼女はますます混乱した。

「こう、じつ?」
「名前ちゃんのこと好きだから、会いたかった」

昨日も言ったじゃん!と言われ名前は痛む頭で考える。そういえば、そんなこと言ってたような気がするような、しないような、記憶がおぼろげすぎてはっきりしない。

木兎はドアの前にペタン、と座り込んでいた名前の前にしゃがんで「ゆきっぺとは友達!友達っつーか仲間って感じだけど、とにかく俺もゆきっぺもお互い何とも思ってねぇよ」と彼女の顔を覗き込む。

「仲間…」

言葉の意味を確認するみたいに声に出す。

「名前ちゃんは?俺のこと好き?」
「わかんない…」
「えっ!?わかんないの!?」
「ごめん」

俯く名前に木兎はガシガシと後頭部を掻いて「そっか…」となにか考えるように視線を斜め上に向けた。
その顔を見つめながら名前はゆっくりと自分の気持ちを噛み砕き始めた。こうやってココにきている時点で彼に対してそれ相応の好意を抱いていることは確かだった。だけどそれが、恋なのかはっきりと明言しかねる。「雪絵の好きな人」という思い込みが、恋に走りそうな心を留め置いたのかもしれない。木兎には言えないが好きになる準備はできていた。

「な、シャワー浴びた?」
「ううん」

急になんで?と思いながらも名前は首を横に振る。

「昨日約束したじゃん。朝起きたら泡風呂しようって」
「し、したっけ?」

正直そんな約束したかしてないか思い出せない。そもそも昨日だって一緒にお風呂に入った時点でどうかしていた、今更だけど鍛えられた体をした人間の前に自分の特に何の運動もしていない体をさらすなんて冗談じゃない。悪い意味で食欲に忠実なわがままボディなのに。
木兎曰く、チェックアウト時間の前に出るにはフロントに電話をしなくてはならないらしい。(えらくお詳しいことで、と名前は思ったが昨日フロントで説明されたという。覚えていない。)つまり、まだ時間があるからひとっ風呂浴びようというわけだ。どういうわけ?と思いつつ彼女は必死に首を振る。

「いや、私はいい、んむ゛っ」

お断りを告げようとした口は木兎のそれで塞がれた。口は禍の元という言葉が彼女の頭に浮かぶ。
昨日散々触れ合ったからか、名前の唇と馴染んでいる気がした。スルッと肩から羽織っていたカーディガンが滑り落ちる。コラーーー!と思うが口を塞がれているので声に出せない。名前の唇を柔く食んでいた薄い唇が離れて、剥き出しになった肩に唇が落ちる。あ、これ昨日もされたな、と唐突に彼女の頭に記憶が蘇った。なんでノースリーブなんて着てきたんだ、と昨日の自分を呪うけれど今更どうにもできない。ジッと木兎が名前を見つめる。先程までの可愛らしい大型犬のような懐っこさは鳴りを潜めて、おろされた前髪の向こうから見える視線はやけに鋭い。いつか動物番組で見た狩りをする時の猛禽類の瞳を思わせた。好きなんだよねワ〇ルドライフ、と名前は現実逃避の様に考える。なんだかまずい気がした。

「よいしょっと」
「わあ!!」

木兎が名前の腰に腕を回して抱え上げる。急に体が浮いて心臓がヒヤッとした彼女はギュッと木兎にしがみつく。

「な、なななに」
「俺名前ちゃんに好きになってもらえるように頑張るよ」

そう言って木兎が浴室の方へ歩き出す。待て、頑張るっていったい何を頑張る気だ、と名前は背筋が冷えるのを感じた。昨日入ったやたらと広い風呂はこれまたリゾート風で、女同士で来たらさぞ盛り上がることだろうと思えた。一度降ろしてもらおうと考えた名前は、ひとまずジタバタしてみたが「じっとして」と注意されて終わった。私が悪いみたいじゃないかとムッとしたが自分の非力さを恨むしかない。彼女を抱え上げている手が悪戯にお尻を撫でて「あ、これお風呂だけじゃ済まない奴だ」と直感した。危機的状況の時に限ってどうでもいいことばかりが頭をかすめる。ネットで見たナントカしないと出れない部屋みたいだとぼんやり思った。一度脱衣所に降ろされて、木兎が蛇口をひねりに浴室に入る。この隙に、とベッド横のフロントにつながる内線に向かうため立ち上がろうとしたがうっかりスカートの裾を踏んづけてその場に崩れ落ちてしまった。

「何してんの?」
「助けて雪絵ちゃん…」
「え、なんでゆきっぺ!?」

思わず口をついて出た言葉に、木兎が驚いた顔をする。何かよくわかんねぇけど、大丈夫だって!と自信満々に言う木兎に何が大丈夫なんだと言いたくなったがまた口を塞がれた。
ザーッと溜まっていくお湯の音に、スカートのジッパーが下げられる音が重なる。たくし上げられたトップスの中に手のひらの硬い皮膚を感じた。カーディガンはすでに無い。きっとどこかに落ちているだろう。背中に回された手がプツンと最後の砦を外した。ほら、なんにも大丈夫じゃないじゃん!!とこぶしでドン!と木兎の胸を叩く。木兎が喉の奥で笑う気配がした。何が面白いんだ!とムカッとした名前は口に滑り込んできた厚い舌を噛んでやろうとした。だけど度胸が無いばかりに、結局のところやんわりとした甘噛みになってしまい木兎を悦ばせてしまう。頭のどこかから雪絵の声で「もう諦めなってー」と聞こえた気がした。


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