番外編3


「ほら」

そう言って帰宅するなりぶっきらぼうにズイと差し出された紙袋は、黒地に白いアルファベットが躍っている所謂デパコスと呼ばれるメーカーのものだった。

「え、なにこれ」

驚きつつも受け取ると「やる」という端的な返事が返ってくる。紙袋を覗くとギフト包装された箱がコロンと鎮座していた。

「口紅?」
「なんでわかったんや?!」

開けてへんのに、と修吾が驚いた顔をする。サイズ感でなんとなくわかるものだと思うんだけどな。

「サイズ感?」
「なんやその特殊能力」
「みんな大体わかると思うけど、っていうか、なんで急にプレゼントくれたの?」
「…ええやないか別に」

やけに歯切れが悪い。視線を逸らしながら言われた誤魔化すような言葉にピンときた。

「修吾」
「なんや」
「怒らないから正直に言って」
「は?」
「私の機嫌取らなきゃいけないようなこと、何かしたんでしょ?」
「はぁ!?」

浮気だとかギャンブルだとか、悪い考えが頭を過る。努めて優しく問いかけた私に、修吾は「なんでやねん!」と今にも言いそうな顔をした。

「俺はただ、うちの若い奴が『女の人ってなんでもない日にプレゼントしたらめちゃくちゃ喜びますよぉ』って言うたからやな…!」
「え」

どうやら裏の無いプレゼントみたいだ。勘違いしたのが申し訳なくなる。

「修吾」
「…なんや」

少しねてしまった修吾に近づいてぎゅっと抱きつく。あまりない私からの接触に彼の体がぎくりと固まるのが分かった。

「疑ってごめんね。すごく嬉しい。ありがとう」

修吾が一緒にいない時に少しでも私のことを考えてくれたという事実が嬉しかった。
修吾は照れくさそうにしながらも「化粧品フロアってなんでああも女ばっかなんや」と話し始める。どうやら調子が戻ったみたい。

「化粧品使うのってまだまだ女性ばっかだしそんなもんじゃない」
「その上勇気出して値段見たらやたら高いし「たっか!」って叫びそうになったわ」

購入まで彼なりの孤独な戦いがあったらしい。確かにたっか!って言ってそう。女性ばかりのフロアでおろおろしている修吾が想像できて思わず笑ってしまった。

「ほんでさまよってたらここ見つけてん」

聞きなれた名前って安心してまうよな、と彼は言うけれど、それは略称が同じ音をしたファストフード店のことではなかろうか。ていうか修吾いっつも「マクド」って言うから聞きなれて無くない?と思ったが無粋なので突っ込むのはやめた。

「あそこかっこいいメイクのお姉さん多いよね」
「強いねん。顔面の圧が」
「顔面の圧」

思わずオウム返ししてしまった。確かに強いかも。わりと好きなんだけどな、カッコいい系のメイク。

「プレゼント探しとるって言うたらあれよあれよとこれ買うてもうた」
「あはは!」
「笑いごとちゃうぞ!!なんであんな『彼女さんの写真ありますか?とか、彼女さん普段どんなメイクですか?』とか聞かれんねん?!普通の化粧ですぅ、しか言えへんかったぞ」
「出来るだけ似合う色味選んでくれようとしてるんだよ」

慣れないことをしてくれたのが嬉しくて、背中に回した腕にぎゅっと力を篭めた。

「…開けてみ」
「うん」

ハグしたままだった体を離して、ギフト包装を開封する。箱からコロンと滑らかなフォルムのリップが現れた。

「あ、可愛い」

優しい色味のそれは、私には随分少女めいてるように思えたけれど、修吾にはこういう雰囲気に見えているのかもしれないとくすぐったく感じた。そっと、リップクリームだけだった唇に柔らかな色を滑らせる。

「どう?」

似合うかな、と修吾を見ると、腕組みした彼が何とも言えない表情で「··ええんちゃうか」と言う。
もっと素直に褒めてくれたらいいのに。と思ったが、後で鏡を見たところコメントに困るくらい似合ってなかったので、もしまた化粧品を買ってくれるようなことがあれば必ず自分も連れて行くようにと、重々言い聞かせる羽目になってしまったのだった。

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