「ちょっとぉ…!」

雑誌に載るとは聞いていたが、女性誌とは聞いていなかった。

きっとそれを言ったところで「言ってなかったっけ?」と笑顔で誤魔化されるに決まっている。 今まで何度その手法でなぁなぁにされてきたことか。腹立たしかったことを思い出し、思わずぎゅうと掴んだ雑誌の端はグッとシワが寄ってしまっていた。

女性誌のイケメンアスリート特集だなんて当然の如く女性が大好きな恋愛面の質問も多いわけで。誌面で爽やかに笑う見慣れた男は配偶者との馴れ初めを尋ねる質問に「初めて会ったとき俺のこと恐竜みたいって言ってて変な子だなって思ったのがキッカケですね(笑)」なんて答えている。(笑)に何故だか無性に腹が立った。
恐竜みたいなんて言ってないし、アレは急にでてきたからビックリしただけだし、と昔のことを思い出しながら心の中で言い訳を並べ立てる。そんなことしてもこうして紙面にのっている以上もうどうしようもないのだけど。

ハラハラしながら紙面に目を走らせると、「奥さんの手料理で好きなのは餃子かな。本人が好きだから自ずと作るのも上手になるんだと思います。餃子とビールで最高に幸せそうな顔するんですよね。」だの「可愛いところ?うーん。たまに俺のTシャツとかに顔埋めて匂い嗅ぎながら寝てることかな。汗臭くないのか心配にはなりますけど、グッときますね。」だの「奥さんへのメッセージ?いつもありがとう。これからもよろしく。シンプルだけどそれに尽きます。」だのありのままに答えていた。

語っていることは事実だ。
事実だけどあまりにも包み隠さず話しすぎじゃないか。親兄弟に限らず友人も見る可能性があるんだぞ?!と詰め寄りたくなる。
こうして私が恥ずかしがるのを気に留めず夫はありのままに私の話をしたがるのだ。照れの感情が麻痺してるのでは無いかと思い聞いてみたことがあるが、全世界に向けての惚気と牽制だと何食わぬ顔で言われたことがある。
なに言ってんだかよくわからなかった。

くそ、事前に詳しく聞いていれば余計なことを言うなと釘をさせたのに。
ふーん、スポーツ雑誌かぁ。と思い込んでしまった自分が恨めしい。というか本当恥ずかしい。特にTシャツで寝落ちの話なんか私が彼のことを大好きみたいじゃないか。
いや好きだけど!羞恥で熱くなる顔を押さえながら誌面で笑う夫、昼神福郎を睨みつける。

シュヴァイデンアドラーズというチームでバレー選手をしている夫はそれなりに公の場に出ることが多い。仕事柄仕方ないことだけどやっぱり自分のこともある程度公になるのはなかなか慣れないものだ。

1人ソファーで羞恥心と戦っていると、玄関から「ただいまー」と呑気な声が聞こえた。

「あれ?それ買ったの?」

リビングに入るなり、夫は私の手にある雑誌を目敏く見つけた。えぇ、買いましたとも。本屋で表紙のあなたと目があったからね。

「女性誌のイケメンアスリート特集なんて聞いてない…」

ブスッとした声でそう言えば「言ってなかったっけ?」と予想通りの答えが帰ってきた。

「わざとだ!」

ビシッと夫を指差してそう糾弾すれば「えぇ、濡れ衣だよ名前ってば酷いなぁ」とよっこらせっと言いながら私の横に腰かける。

「ただいま名前」と両手を広げられると、つい習慣で「おかえり福郎」とギュッとしてしまった。
いけない流されてる。
バッと身を離すと福郎はにこやかに「まーた照れで悶えてるのか?」と身長に見合った大きな手でほっぺをむにむにと弄ばれる。

「知ってる人にこう言うの見られるのは恥ずかしいって言ってるじゃん…」
「夫婦仲が良いって思われるだけだよ」

何が悪いの?と言いたげな顔で鼻を摘まれる。

「バカップルっぽいし」
「バカップルじゃん」

ね?と頬擦りされると、伸ばし始めた髭が擦れてチクチクと痛い。
「こういう…ラブラブっぽい話は2人っきりの秘密がいいもん」と子供っぽい本音をポツリと漏らすと「なんだそれ、かーわいいな」と喜色満面の福郎はぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。

190cmオーバーの成人男性に抱きつかれるとわりと苦しくて重いというのは福郎と付き合って初めて知った。

「福郎苦しい」
「あ、ごめんごめん」

ニコッとするこの人が試合になると険しい表情をするなんてあまり信じられない。普段はにこやかさで腹の黒いところを隠しているのが試合だと隠し切れないだけかもしれないな、なんてバレたら怒られそうなことを考える。

「はぁ〜今日も疲れたよ」
「うん。お疲れ様」

ご飯にするね。と立ち上がると「もう少し充電させて」とソファーに座ったままの福郎に軽くハグされた。

「いい匂い…柔い……」

ボソボソと呟く内容が恥ずかしい。
こういうところは、どの雑誌にも載ってないから私しか知らないんだろうなぁと思うと胸の奥が何かよくわからない感情で満たされる。
なんだろう優越感?満足感?そう言うのが混ざり合った感じ。わしゃわしゃと普段なかなかお目にかかれないつむじを見下ろしながら頭を撫でる。
可愛い。でっかい成人男性に対して使う形容詞ではないと思うけど、その表現が一番しっくりきた。正直出会った頃は、この人と結婚するなんて微塵も思っていなかった。
むしろ苦手なタイプだなぁと思っていたのが懐かしい。
そうこう言いつつこうして陥落させられた私はなんだかんだ結局、心も体もこの男の蜘蛛の手にしっかり絡めとられているのだ。


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