「なにこれ」 想像よりもずっと低く重い声で聞こえた返事に、私は自分の選択が誤りだったのだと悟った。 「え…その、昔女4人でやったハロウィンパーティー…の写真です」 途切れ途切れになりつつも、女の子しかいなかったと暗にアピールしてみる。だけど、彼の表情は険しいままだった。 普段にこやかなことが多いから、こういう表情は珍しくてちょっと怖い。 事の発端は、彼がハロウィンのケーキを買ってきてくれたことだった。 「わぁパンプキンタルト!」 「はは、喜ぶと思った」 「ありがとう〜!」 甘いものを与えられて喜んだ私は、つい嬉しくなって2、3年前に友達と開催したハロウィンパーティーでもパンプキンタルトを食べた話をした。仮装していた、と話したところ、彼が「写真無いの?」と聞いたのだ。 私は、カメラロールをチェックして、ちょっと面白みのある写真を見せようと思ってしまった。そして、張り切って見せた写真は、彼の顔を曇らせる。 「…これ、何の格好?」 「ま、魔女…」 こういうコスチューム系が好きな友達が準備してくれたのはセクシー系の魔女だった。露出が多いというよりは、体のラインがはっきりわかるボディコンシャスなやつ。長袖でワンピースの裾も長くて首元も詰まっている。会場は友達の家だし、と思い切ってメイクも濃くしていた。 多分彼が怒っているのは、そこじゃない。 私が着ていたのは、首元は詰まってるのに胸元だけ開いている謎デザインのワンピース。友達は禁欲的な中でそれが良いんだって言っていた。ぱっくり開いて露出した胸元、その寄せて上げられた谷間に悪ノリした友達がポッキーを突っ込んでいる、そんなシーンだから怒っているのだ。食べ物で遊ぶなんてはしたないって思われたかな、と俯いてしまう。もっと普通の写真にすればよかった。みんなでピースしてるだけのやつとか。 福郎は静かに私のスマホを眺めながら「この服まだ持ってるのか?」と聞いた。 「…持ってない」 嘘だ。急に身の危険を感じた。多分判断としては間違っていない気がする。 「その、はしたない写真見せてごめん。こういう事したのこの時だけだから」 そう言ってスマホを奪おうとすると、ひょいと腕を上に上げられた。そうされると届かない。 立ち上がって取ろうとすると、福郎も立ち上がる。そのせいでスマホが床から3m地点くらいに移動する。届くわけない。 「ちょっと、返して」 「あのさ、俺は別に怒ってないよ」 「え?」 福郎はふぅ、と一息吐いて話し出す。 「こういうこと俺とはしてくれたことない」 「するか!!!」 思わず大きな声が出た。 「一回やったら何回でも一緒だろ」 「無理」 「ちょっとポッキー刺すだけ」 「絶っっっ対しない」 チョコが溶けてべったべたになるの!と言えば「責任持って綺麗にする」とやけにキリッとした顔で言われた。 「…ろくでもないこと考えてる」 「信用ないなぁ」 私は福郎を無視してパンプキンタルトを食べ始めた。甘さ控えめでスパイスの効いたそれは、私の好みにピッタリで、福郎のこういうセンスの良さにはいつも舌を巻かされる。 「はぁー…ダメか」 残念そうな福郎もタルトに手をつける。そのガッカリした顔が妙におかしくて私はついぷっと吹き出してしまった。 この後、妙に感の良い福郎が隠していた魔女のコスチュームを見つけ出してしまい面倒なことになるのだけど、この時の私はそんなこと知る由もなかったのだった。 |