花の精はうっかり屋



きゅ部でおなじみの花の精さんがうっかりなまえちゃんを3歳児にしちゃったよ!花の精さんったらナイスだね!



名前が3歳児になった。

その話を聞いたとき、幸郎は何を馬鹿なことを、と思った。あまりにも荒唐無稽な話過ぎてまともに取り合う気も起きない。ただ、名前が巻き込まれているのなら、と気が進まないながら名前がいるという場所へ足を運んだのだった。

「だぁれ…?」
「うそだろ…」

そこで幸郎が見たのは小さな女の子だった。
子供らしいバランスの等身は頭が重く見える。とことこと危なげなく歩いてはいるものの、いつか頭から転ぶのではないかと不安になった。ふくふくした小さな手に、子供らしく小さな顔に対して大きく見える目、まるいほっぺ。
3歳の時の名前に会ったことなどない幸郎だったが、小学校低学年の時の彼女の面影が確かにあった。それに悲しいことだが、幼い顔に浮かぶ怯えた表情はよく見覚えがある。

「… 名前ちゃん?」

名前を呼べば、コクリと小さく頷く。嘘だろ、と幸郎はこめかみを手で押さえる。この状況にどう対応したらいいかわからなかった。ひとまず回収しよう、と「名前ちゃんおいで」と抱き上げようとする。
すると彼女は零れ落ちそうなほどに目を見開いて脱兎のごとくそばにいた星海の後ろに隠れた。星海とは、幸郎より先に顔を合わせていたらしい。

「…お前でけえからガキは怖がるだろ」

星海の言葉に、少なからずショックを受けた。さらに悪いことに「なんか苗字がガキになったって聞いたんだけど」と現れた白馬を見て、名前はいよいよその瞳に涙を浮かべた。大きな生き物が怖い年頃なのかもしれない、と幸郎はふぅ、と小さく息を吐く。

「名前ちゃん。お父さんとお母さんのところに連れてってあげるよ」

傍から見れば完全に誘拐犯のセリフのようだが、背に腹は代えられない。親のことを言えば警戒も解けるかと思った。しかし、名前は星海の右足にしがみ付いて、首を横に振るばかり。声すら発してはくれない拒否。警戒心の強さは良いことだが、幸郎は面白くなかった。

「…小さいもの同士だから、光来くんに懐いたのかな」
「言っとくけど負け惜しみにしか聞こえねーからなそれ」

そう言って、星海は足元にいた名前を抱き上げる。無抵抗で抱き上げられた名前は「こぉらいくん」とにっこり笑いながら可愛らしい声で呼んだ。

「おう」
「こぉらいくんおっきいね」
「…あいつらの方がおっきいだろ」

大きいと言われたことに少しだけ嬉しさを滲ませつつ、星海が幸郎たちを指差す。ちらりとそちらを見た名前は「いや!」と言って、星海の肩に顔を埋めた。

「…楽しそうだね光来くん」
「おい、その顔ヤメロ」
「お前なぁ…」

幸郎の顔を見た星海と白馬が口々に幸郎を諫める。自分がどんな顔をしているのか幸郎は分からなかった。かといって鏡をのぞく気も起きない。
どうすれば彼女が元に戻るのか、見当もつかないが必死に考える。そこへ「おーい何やってんだ?」と野沢と上林がやってきた。後ろには戸倉と乗鞍の顔も見える。
白馬が簡単に説明すると、皆やはり何を馬鹿なことを、という反応を見せたが、実際3歳児になっている名前を見て納得せざる得なかったようだ。

「幸郎嫌われてんのウケるな」
「確かに」

先輩たちはそういって面白がるが、幸郎からすれば一切ウケるポイントはない。ふと、上林が星海に抱かれる名前に顔を近づけて「こんにちは」と声をかけた。

「…こんにちは」

小さな声だったが、ほっぺを赤くして恥ずかしそうにあいさつする名前はまさに恋する女の子だった。
三つ子の魂百までという言葉が幸郎の頭を過る。そんな幸郎に気づいてか、星海が「なぁ苗字、幸郎とも遊んでくれよ」と名前に話しかける。
名前は星海が言うなら仕方ない、とでも言いそうな表情で幸郎をじっと見つめて「…おえかきする?」と聞いた。

「うん」
「おなまえは?」
「幸郎です」
「さちろぉくん?」
「そうだよ」

そう言って笑顔を心がけて両手を伸ばす。
名前も、そっと幸郎の方に手を伸ばした。そして両脇の下に手を入れて名前を抱き上げようとした瞬間、全員の脳内に花の精を名乗る声が響く。曰く、間違って名前を3歳児にしてしまったので元に戻す。騒がせて申し訳ないと。次の瞬間、ポン!と可愛らしい音を立てて元のサイズの名前が現れる。予想外の展開に、幸郎は名前ごと後ろに倒れてしまった。

「ッきゃあ!?」

何が起きたかわからない、という顔の名前が地面に倒れた幸郎の上に乗っている。

「え、なん、幸郎くん?」
「… 名前ちゃんだ」
「えっ、うわぁ!!?」

急に力いっぱい抱きしめられて、名前は目を白黒させる。そして幸郎は、自分の名前が戻ってきたことにホッと胸を撫で下ろしたのだった。




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