寒い日(星海視点)



その日は今冬の最低気温を記録するほどに寒い日で、いくらある程度の寒さに慣れた長野っ子と言えども、外に出れば震えてしまうような気温だった。
冬らしく早々に陽は落ちて、部活を終える頃にはすっかり外は暗く、降り積もった雪が街灯の灯りを反射してぼんやりと明るかった。

片付けを終えて体育館から出ると、キンと張り詰めるような冷たさが星海たちを襲う。未だ降り続ける雪を見ながら、明日は朝から体育館前雪かきだな、と星海は顔を顰めた。ベンチコートの前をしっかりと閉めて、ポケットに手を突っ込むといくらかマシに感じられる。頬が痺れるような冷たい風を感じながら、星海は足早にバス停へと向かった。

「あれ、星海くん」
「お前なんでこんな時間にいるんだ?」

バス停の待合室で見つけた顔に、星海は挨拶よりも前に疑問を口にしてしまった。一瞬自分でもそれを気にしたが、言っちまったもんはしょうがねぇと割り切る。竹を割ったような性格が彼の持ち味だった。
中学からの同級生である苗字名前は、おっとりとした様子で口を開く。

「部活終わるの遅くなっちゃって」

苦笑いする彼女の首には寒いのかマフラーがぐるぐる巻きにしてある。そして、手には一番高温になるカイロが握られていた。

「ふーん。珍しいな」
「うん。時々遅くなることもあるよ」
「そっか」

どかっと星海がベンチに腰掛けた時、また1人バスの利用者が現れた。

「光来くーん、置いてかないでよ」
「さみぃから早足にもなるだろ」
「歩幅が小さいから回転数で勝負してんの?」
「てっめぇ、「あれ名前ちゃんだ」

彼女を見つけた昼神の意識は、すでにチビ扱いに怒れる星海から名前に向いていた。

「珍しいね、この時間に帰ってるの」
「うん。遅くなっちゃったの」
「ふぅん。一緒に帰る?」
「うん!」

嬉しそうに頷く名前は、立ち上がって昼神に歩み寄る。そして、当たり前のように前を閉じていなかった昼神のベンチコートに手を突っ込んだ。

「うー…やっぱりあったかいねこれ」
「まぁね」
「明日タイツ履いた方がいいかなぁ」

寒くて嫌になっちゃう、と雪国の女子高生らしく生足の名前はそのまま甘えるように昼神に抱きつく。すでに星海の存在を忘れているようだった。
昼神も「そうしたら?」と答えながらベンチコートのポケットに手を突っ込んだまま、コートに名前を閉じ込めるようにした。名前がベンチコートの中が暖かいことを知っているあたり、前もそうした事があるんだろうと星海は眉間に皺を寄せる。

「おい、俺の前でイチャつくなっつってんだろ」
「あっ、ご、ごめんなさい」

星海の言葉に弾かれるように名前がコートを出て行こうとする。
しかし、昼神に阻まれてそれは叶わない。星海の方向を向いた名前は昼神の胸元から顔だけ出た状態になっていた。
二人羽織みてぇだな、と星海はその光景を眺める。

「幸郎くん放して」
「なんで?こうしてた方があったかいよ」
「そうだけど…ねぇ放してってばぁ」
「風邪ひいたら困るの名前ちゃんだろ」

ジタバタする名前を昼神はおかしそうに見下ろす。星海はうんざりした気持ちでバス早くこねぇかな、と外に視線を向けた。

2人はまだ何やら揉めているようだったが、星海は無視を決め込むことにする。
星海だって、馬に蹴られるのは嫌なのだ。




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