"めい"



ブーッブーッ!と震えるスマホ画面を私は複雑な気持ちで見つめていた。 ファストフード店のテーブルに置かれた幸郎くんのスマホは先ほどから“芽生”さんからの着信を告げている。“めい”って誰?という疑問で頭がいっぱいの私は、不安からキュッとスカートの膝付近を握った。
女バレの子だろうか、それとも同じクラスの子だろうか。お姉さん、というオチもあるかもしれないけれど、お姉さんの名前は招子さんだからその線は無い。
もやもやした気持ちでいると、幸郎くんが追加注文分の三角形のパイを持って戻ってきた。

「はい、名前ちゃんの分」
「ありがとう。あの…なんか、電話来てたみたいだよ」

ついそんなことを言ってしまったのは、きっと自分で思うよりずっと私がやきもち妬きだからなんだと思う。
幸郎くんは履歴を確認して「なんだガオか」と折り返す様子も無くサクサクとパイを食べ始める。

「ガオって白馬くん…?」
「そうだよ」
「発芽の芽に生きるで?」
「うん」

なんでそんなこと気になるのか、と不思議そうな表情をしながら、幸郎くんは頷く。

「我に王とかでガオなんだと思ってた…」
「っ、はは、そんなこと思ってたんだ」

そう言って笑う幸郎くんに安心感を覚えて、私も自分の分のパイに口を付けた。あったかくて甘くって、トロっとしていて美味しい。
安心して食べる美味しいものは、なんだかいつもよりもっと美味しい気がする。私の口の端についたパイ屑を幸郎くんの指先が摘んだ。

「美味しい?」
「うん」

白馬くんのこと女の子だと思ってやきもち妬いてたなんて知られたら格好のからかいのネタになってしまう。これは絶対に内緒にしておこう。そう思った私は「一口食べる?」と話を変えにかかったのだった。




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