光になりたい(大人)


1週間ぶりに訪れた幸郎くんの部屋は、先週とは打って変わって雑然としていて、そのはっきりとした変化が彼の多忙さを窺がわせた。余計なお世話かとも思ったけど、ソファーに引っかかっている服を簡単に畳んでいく。洗濯物を取り込んでとりあえずソファーに放った感じかなぁと、そう思った。
パジャマ代わりのスウェットに顔を埋めると幸郎くんのにおいがして、きゅうと心臓に甘い痛みが走る。早く顔が見たかった。

ピカピカのシンクが意味するのは、多分使っていないということだろう。出来合いのものでもちゃんと食べてるのは安心するけれど、栄養バランスには気を付けて欲しかった。医者の不養生になりかねない。
専門雑誌の類は勝手に片付けていいのか迷う部分なのでとりあえずその場に揃えておく。そうこうしている内に、玄関からガタガタと音がした。そしてリビングに続く扉が開いて、どこかくたびれた様子の幸郎くんが現れる。

「名前ちゃん来てたの?」
「おかえりなさい」
「うん、ただいま」
「あの、勝手に片付、わっ!?」

勝手に片付けた旨を伝えようとしていると、その辺に荷物を放った幸郎くんが正面から抱きついてきた。
その衝撃に後ろに転がってしまう。交通事故にあったらこんな感じなのかもしれない。

「さ、幸郎くん…?」
「……」

声をかけても幸郎くんは無言のままで、私の胸元に顔を埋めるように抱きついている。その後頭部をそっと撫でてみると、抱きつく力が少し緩んだ気がした。彼が、こうして心身ともに疲れ切っている姿はなかなか見ない。

いくら好きなことでも、きつい時期はある。もしかしたらそういう時期、そういう出来事にぶつかったのかもしれないと思った。
190pオーバーに乗られていると、正直すごく苦しい。でも、こうして私に甘えてくれることを嬉しいとも思う。

“幸郎くんの光になりたい“最近そう思うことが増えた。
多分、幸郎くんにとっての”光“は星海くんだった。どこか暗い目をしていた幸郎くんを救った人。あの頃、幸郎くんが何に思い悩んでいたのかを、私は知らない。いつか、話してくれる日が来るのかもしれないけど、やっぱりどこか、星海くんには敵わないという気持ちがあった。

幸郎くんの進む道を、照らしてあげられる光になりたい。
地球の周りをくるくる回る月みたいに、夏の川辺を照らす蛍みたいに。強い光じゃないけれど、あなたを照らす存在になりたい。夜と朝が交わる瞬間のように、混ざり合っていたい。幸郎くんの心が休まる場所でいたい。

私は幸郎くんが思うよりずっと欲張りだから、幸郎くんにとって代わりのいない存在になりたい。私にとっての幸郎くんがそうであるように。幸郎くんがずっと私の手を引いてくれたように、私も、幸郎くんが迷った時や立ち止まってしまう時に手を引いてあげたい。

「…疲れちゃった?」
「うん」

素直に認める幸郎くんが可愛らしく思えて、思わずくすくす笑ってしまう。

「…なに笑ってんの」
「可愛いなぁって」
「なんだよそれ」

今日の幸郎くんは少しだけ口調が荒い。よしよしと頭を撫でていると、背中から幸郎くんの手が服の中に入ってきた。

「こ、こら」
「うん」

静止の声をあげても、その手は止まる気配がない。

「聞いてる?」
「うん」

うん、って言うくせに、手のひらは止まることなく背中を撫で上げていく。

「ちょっと、やめてよぉ」
「聞こえない」
「も〜…」

諦めて抵抗をやめると、幸郎くんが笑う気配がした。ちらっとこちらを見た目元は笑っていて、ちょっとだけ気分が持ち直したのかな、と安心する。
そして、そんな油断した私を幸郎くんが見逃すはずもなく、私はいとも簡単にトップスを奪い取られてしまった。
でもそれを嫌だと思ってない私は、きっと自分で思うよりも、ずうっとこの人に夢中なんだろうな。そう思いながら、幸郎くんの唇をそっと受け止めた。




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