放課後のファストフード店は大抵学生であふれかえっている。駅からほど近いこの店舗も例に漏れず、放課後を過ごす場所を求める学生でごった返していた。
「名前ちゃんそんなに食べらんないって」
「そんなことないよ」
「どうせ途中でお腹いっぱいって言うくせに」
「言わないってばぁ」
「はいはい」
「あ、幸郎くん信じてないでしょ」
「うん」
「も〜」
私のひとつ前に並ぶ二人組は、どうやらカップルのようで先ほどから注文をセットにするか単品にするかで揉めている。セットを頼もうとする女の子を背の高い男の子はどこか呆れた目で見ながらストップをかけていた。
「名前ちゃんは単品。ほら、席取ってて」
彼は片手をひらひらと振って追い払うように彼女を座席が並ぶスペースに促した。どこか寂しそうに空いている席を探しに行く彼女を見送って順番を待っている。
なんか彼女の扱いが雑だと思った。もう少し優しくしてあげたっていいのに。他人の私が、あれこれ言えた義理ではないけれど。
鴎台高校の制服を着た彼は注文をサクッと済ませて、番号札を手に去って行く。
「お次のお客さまどうぞー」
「あっ、やば」
自分の順番が回ってきた私は、カップル観察にかまけて注文が決まっていなかったせいで無駄に悩む羽目になってしまった。
自分の注文を済ませて先に入店していた友達を探すと、隣の席に先ほどのカップルが座っていた。自分の分のハンバーガーを既に食べ終わったらしき彼は、まだ食べている彼女をにこやかに眺めている。そして、時折その口元に自分のポテトを差し出しては食べさせていた。ハムスターの餌付けみたいだ。
「…お腹いっぱい」
少しして、ハンバーガーを食べ終えた彼女は、差し出されたポテトを見てどこかバツが悪そうにそう口にする。
「ほら言った。セットにしなくて良かっただろ」
「うぅ…」
目に見えてしょんぼりとした様子の彼女に、彼はそっと食べていた自分のチョコパイを差し出した。
「食べる?」
「…うん!」
あ、甘やかした。反射的にそう思う。
にこっと嬉しそうに笑った彼女は差し出されたチョコパイを一口齧った。
「美味しい」
「良かったね」
相変わらずにこやかな彼は、甲斐甲斐しく彼女の口元についたパイくずを取ってあげていた。可愛いな〜って聞こえそうな表情に見える。
ふぅん。ずいぶんと飴と鞭が上手なことで。カップルなんて爆発しろ。
心の中で悪態をつきながら、私は大きな口でハンバーガーを齧ったのだった。
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