月明かり(幸郎視点)




夜遅いとも早いともつかない中途半端な時間にコンビニへ資格試験の支払いに向かおうとしたのは、その道中でバイト帰りの彼女に会うかもしれないという思惑あってのことだ。
バイトが終わった連絡は来ていたから、ほぼ確実に会えるだろうと踏んでいた。降り積もった雪を踏み鳴らしながら歩いていると、向かいから微妙な距離感の男女が歩いてくるのが見えた。
月明かりに照らされた不安げな顔をした女性は間違いなく名前ちゃんで、俺は思わず「おかえり」と大事な女の子へ手を差し出した。何故か心底安心したような表情の彼女が俺の方へ駆け寄ってくる。雪の上だというのに足を滑らせることなくこちらへ来れたのは、長らく雪国へ住んでいる経験値の賜物だろうか。

言葉はなくとも瞳は雄弁で、彼女の目はいつだって俺を見ると「大好き」と伝えてくる。ずっと怯えた瞳を向けられていたのが嘘みたいだ。そんな雄弁な名前ちゃんの瞳が恐怖と安心を訴えてくる。誰だか知らないけれど、きっと彼女の隣を歩いていた男が原因なんだろう。
彼女と一緒に歩いていたバイト先の先輩だという男は、俺の体格に気圧されたのかそそくさと去っていく、それを見届けて、家族が不在の自宅まで名前ちゃんを送っていった。さてコンビニに行こう、とキスをして去ろうとすると名前ちゃんが俺の手を掴む。

「…行かないで」

可愛いおねだりに理性が揺らぐ。結局その手を振り払うことなんてできずに彼女を連れてコンビニへ赴いた。無事手続きを終えて彼女の姿を探せば、名前ちゃんが棚に並ぶゴムをじっと見つめていた。格好のからかいの種を見つけたと口角が上がってしまう。

「買うの?」

そう耳元で囁くと、思った通り名前ちゃんは飛び上がって驚いた。
俺に見つかってしまった焦りで、目が泳いでいる。誘導尋問のように、彼女にゴムを選ばせてレジへ持っていく。もちろん、この後の展開を意識させることも忘れずに。

名前ちゃんの家に着いた後も彼女は何かと俺のそばから離れたがらず、可愛いと思う反面心配でもあった。コトに及んでいる間も、名前ちゃんは甘く鳴きながらもどこか瞳に不安を灯していいて少し気掛かりだった。最初の頃、体を硬く強張らせていたことに比べたら随分と行為に慣れたと思う。

快楽に顔を歪める名前ちゃんの表情は写真に撮って保管しておきたいほど悩ましい。好きだなんて言葉じゃ足りない。彼女のどんな表情も逃したくない。籠に入れて閉じ込めておきたいほどに焦がれている。
これが愛とでも言うんだろうかと自嘲の笑みが漏れた。でも、そんな俺に一生懸命手を伸ばして自分を差し出そうとする健気さを見せる名前ちゃんに、優しくしたいと、そう思う。

名前ちゃん。名前ちゃんの手を放してあげたりはできないけど、きっと一番大事にするって約束するよ。内心でそう思いながら、俺だけの変わらないものにそっと口付けた。






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