アイス


ひょいと覗き込んだケースの中では、カラフルで様々な形のアイスたちが選ばれるのを今か今かと待っていた。
定番から限定のものまでたくさんあって目移りしてしまう。こたつで食べるならおもちもちもちの奴かなぁ、と手を伸ばすと、その横に同じ商品の季節限定のチョコ味があることに気がついた。これは悩ましい。
う〜んとアイスの入ったケースの前で悩んでいると「なにやってんだ」と聞きなれた声がした。

「星海くん!今帰り?」
「あぁ」

小腹減ってコンビニ寄った、と星海くんもアイスのケースを覗き込んだ。
星海くんが部活終わりだということはもしかして幸郎くんも一緒にいたのかな。でも星海くんの横にその姿はない。

「あ、苗字後ろ」
「え?」
「もー、ばらさないでよ光来くん」
「わ、幸郎くん!」

私の背後を指差した星海くんにつられて振り向けば、いつの間にか後ろに幸郎くんが立っていた。驚かせようとしていたようだ。

「何してたの」
「こたつでねアイス食べたいなーって」

でもどっちの味にするか決められないの、と言えば、「チョコいいね」とアイスのケースと幸郎くんで私を挟むように後ろから体重をかけられる。

「重いよぉ」
「え〜?」

にこにこと機嫌が良さそうな幸郎くんは「定番のを俺が買って、名前ちゃんがチョコを買うのどう?」と提案する。

「えぇどうやって食べるの?」
「俺の家おいでよ」
「今から?」

15時過ぎの中途半端な時間。アイスを食べる為だけに行くのも気が引けた。それに今日は裏起毛のパーカーにジーンズというあまりにラフな格好なのでもうちょっと可愛い格好の時に会いたかったという思いが躊躇させる。

「うち、オイルヒーター出たよ」
「えっ」

聞こえた単語に、つい反応してしまった。コタロウちゃんが万が一にでも火傷しないようにと、昼神家にはオイルヒーターがある。もちろん昼神家にある暖房器具はそれだけじゃないんだけど、温まるのが遅い代わりに、ぽかぽかと部屋全体が陽だまりのような優しい温かさに包まれてすっごく心地良いのだ。(以前親にうちにも買って欲しいと言ったら「電気代高くなるから絶対ダメ」と言われたので憧れの家電だった)

「行く!」
「決まりだね」

幸郎くんとレジに向かうところでやっと、いつのまにか星海くんがいなくなっていることに気がついた。会計を終えて外に出ると、白馬くんとコンビニの外で肉まんを食べていた。

「おう、いちゃつき終わったか」
「い、いちゃついてないよ!」
「言ってろ」

心底嫌そうな顔で星海くんがこちらを一瞥して、また肉まんにかぶりついた。その後ろで白馬くんもうんざりしたような顔でこちらを見ている。二人してなんでそんな嫌そうな顔するんだろう。

「んで、どうすんだよ幸郎」

ファミレス行くのか?と白馬くんが尋ねる。コンビニで買い食いした上にファミレス行くってどんな胃袋なんだ。

「いや、名前ちゃんと帰るよ」
「わかった」
「苗字お前、嫌なことはちゃんと嫌って言えよな」

少しだけ心配そうに、星海くんがそう言う。

「大丈夫だよ」

ありがとう、とお礼を言えば、「どういう意味だよ光来くーん」と幸郎くんが星海くんを見下ろした。

「さ、幸郎くん、行こ」
「うん。じゃあね」

二人に別れを告げて寒い中を幸郎くんのお家へと向かう。無事お家に着くと、コタロウちゃんが嬉しそうに迎えてくれた。

「コタロウちゃん!」

よしよしと撫でている間に、幸郎くんがお部屋に荷物を置きに行った。

「ふわふわだね」

クゥンと甘えた声を出すコタロウちゃんに可愛いなぁと頬が緩む。「おまたせ」おいで、と荷物を置いて着替えた幸郎くんが私をリビングへ手招きする。
ソファの前にぺたりと座ってコタロウちゃんをもふもふしていると、アイスを冷凍庫に入れ終わった幸郎くんもコタロウちゃんを構うため横に座った。太陽光がたっぷり入る昼神家のリビングは断熱性が高いのかそもそもめちゃくちゃ寒い、というわけでもない。
幸郎くんがヒーターのスイッチを入れて温まるまで、2人と一匹で体を寄せ合った。

「寒くない?」
「大丈夫だよ」

わふ、とコタロウちゃんも返事をするものだから、幸郎くんと顔を見合わせて笑ってしまった。ふと、そういば初めてキスをしたのはここだったな、と少し懐かしく思った。驚きと戸惑いで混乱したのをよく覚えている。
でも、嫌ではなかった。触れた唇が熱くて、優しくて胸がドキドキした。そんなことを思い出しながらついつい幸郎くんの唇をジッと見つめてしまう。
お姉さんがいるからか、幸郎くんは乾燥したときはリップクリームを塗るという感覚があるらしく唇が綺麗だ。私はつい塗るのを忘れてしまってかさかさしているときがあるから、ちょっと恥ずかしい。
唇が荒れてるから、って嫌がっても「後でリップ塗ってあげるよ」とキスされる。幸郎くんがいいなら、まぁいいかって思うことにした。ぐりぐりリップクリームを塗られて、唇から幸郎くんと同じメンソレータムの香りがするのは、ちょっとドキドキする。

「どうしたの」
「ん、なんでもないよ」
「本当に?」
「うん」

私の視線に気がついたのか、幸郎くんが私の顔を覗き込む。そして、近づいた距離を一気にゼロにした。

「んっ」
「こうして欲しいのかと思った」
「…違うもん」
「そう?ごめんね」

全然悪いと思ってなさそうな顔で、幸郎くんが私の腰を抱えるように腕を回す。

「寒かったら言って」
「平気」

幸郎くんとくっついてるから平気なんだよっていうのは、言わないでおこうってなんとなく思った。次第に辺りがぽかぽかと陽だまりみたいに温かくなってくる。お尻があったかいから、多分床暖房も入っている気がする。

「コタロウちゃん寝ちゃった」
「ほんとだ」

すやぁと気持ちよさそうに眠るコタロウちゃんを見ていると、私もふぁ、とあくびが出てしまう。

「眠い?」
「ちょこっと…」
「寝ていいよ」

そう言うと、幸郎くんは私を足の間に座らせた。幸郎くんを背もたれにしてるみたいになる。あったかくていい匂い。幸郎くんのにおい、安心する。そんなこと思う日が来るなんて思ってもみなかったなぁ。
徐々に意識がとろりと溶けてくる。よくわかんないけど、幸郎くんが私の手を触って「ちっちゃい」って笑っていた。何が楽しいんだろう。大体の人は、幸郎くんより手が小さいよって言いたいのに、とろけた意識のせいで言葉が発せない。

「おやすみ名前ちゃん」

そうしてぽかぽかの幸せな空間の中で、アイスのことなんてすっかり忘れてしまった私は気持ちよく眠りに落ちたのだった。





back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -