夏の2人


エアコンがないと汗ばむような季節になり、私も幸郎くんも半袖に衣替えしていた。
今日は昼のミーティングも無いらしく、昼休み早々に教室から拉致された私は偶然にも鍵が開いていた視聴覚室でエアコンの涼しさを堪能しながら幸郎くんと2人お弁当を広げている。
偶然にもと言ったけれど、どうやら昼休み後に授業で使うそうで先生が事前に開錠してエアコンを入れているらしかった。それを知っていた幸郎くんがあえてここを選んだというわけだ。優等生で通っている幸郎くんは時折こうしてずる賢いというか要領の良いところを見せる。エアコンの恩恵を受ける私が何か言えた義理ではないけれど。
遮光カーテンが引かれた視聴覚室は仄暗くて、カーテンの隙間から射す太陽の光が空気中のほこりをきらめかせて光の粒みたいに見えた。
一足早く食事を終えた幸郎くんはスマホを扱いながらふふっと笑っている。ちらりとメッセージ画面が見えたから星海くんあたりから何か来てたのかもしれない。画面の向こうに幸郎くんを取られたみたいに感じてサンドイッチを持ったままピタッとくっついてみた。頬を寄せた二の腕はエアコンでひんやりとしていて心地良い。

「名前ちゃん?」
「ふぁい」
「口ハムスターみたいになってる。どうかした?」
「んっく、…幸郎くん二の腕冷たくなってる」
「そりゃエアコン入ってるからねー」

スマホを置いて幸郎くんが私の二の腕や首、頬を触る。

「名前ちゃんも冷えてる」

寒くない?と尋ねる幸郎くんに大丈夫と頷いて秘密兵器を見せる。

「え、まだ売ってるんだ」
「さっき自販機で見つけてつい買っちゃった」

季節外れに思えるコーンスープは自販機の片隅で季節柄「つめた〜い」に負けそうな「あったか〜い」の牙城を守っていて、エアコン入ってると寒いしなぁとついボタンを押してしまった。プルタブを開けて口を付ける。

「あっつ!」
「大丈夫?」
「火傷した…」

コーンスープの本気をなめていた私はもはや「あっつ〜い」だったコーンスープで火傷をしてしまった。舌がじんじんとしびれたようにうずく。

「見せて」

幸郎くんに促されてベッと舌を出した。すると何故か幸郎くんの顔が近づいてくる。

「んん゛!?」

ぱくり、食べるみたいにキスされた。
二の腕と同様ひんやりとした口内は、冷えたミネラルウォーターを飲んでいたからかもしれない。べろりと私のものより大きな舌が、火傷した表面をなぞる。じわじわとした微弱な痛みが走って、グッと眉間にしわが寄った。

「ん……」

短いような長いような触れ合いが終わってジトッと幸郎くんを見る。つい今しがたキスしたとは思えないくらい、相変わらず穏やかな顔をしていた。賢い幸郎くんのことだ、今の行動にも意味があるのかもしれない。

「…なんでキスしたの?」
「え?なんとなく」
「えぇ…」

意味無いのに痛い思いさせたの!?と思ったけどコメントする気力がなかった。言ったってどうせ徒労に終わるのが目に見えている。こうして幸郎くんにちゃんと文句を言わないのが私の悪いところだと星海くんは言う。自覚はあります。

「嫌だった?」
「…痛かった」

幸郎くんが自分の膝に頬杖をつくようにして私の顔を横目に見る。嫌じゃなかったって、知ってる顔。

「ごめんね」
「うん」

謝りながら幸郎くんが指の背で頬を撫でる。優しい目。そんな顔されたら許すしかなくなる。食べ終わったお弁当を片付けていると、幸郎くんが「そういえば」と何かを思い出したみたいに私を見た。

「名前ちゃんさ、たまにこうしてるよね」

そう言いながら幸郎くんの指が襟ぐりから肩に入り込んでくる。くすぐったい。

「もしかしてブラの紐直してる?」
「えっ」

バレてたのか、と目を見開く。そうしてる間に幸郎くんの指先がブラの肩紐に届いた。

「あれって男子にバレてるから教室でしないほうがいいよ」
「え、えっ!わかってるの!?」
「そりゃね」

わかるよ、と幸郎くんは笑う。全く気付かれてないと思っていたから恥ずかしい。パチン、と幸郎くんの指先が肩紐を弾く。

「あ、これ見たことないやつだ」
「買ったの、その、サイズ変わったから」

後半はもごもごと小声になってしまった。サイズが変わった申告の前に、なんで見たことあるとかないとか覚えてるのかの方を追求すべきだったかもしれない。

「へぇ〜。確かに最近手ごたえ違うかも」

そう言いつつ自分の手を見る幸郎くん。何を思い出してるの!とその手をパシン!と叩き落す。

「どうせ太ったもん」
「俺は気にしないけどな〜」

そこで太ってないよと否定しないところが幸郎くんだ。体重は変わってないし太ってないと信じたい。

「俺は名前ちゃんならなんでもいいよ」

本心なのかもしれないけれど、そう言えば私の機嫌がよくなると分かっている幸郎くんはやっぱりずる賢いというか、要領が良いというべきか。
私はわざとムウッとした顔をして相変わらずひんやりとした幸郎くんの二の腕にくっつく。そうすれば、幸郎くんが優しくしてくれると知っているから。
そんな私もきっと、ずる賢いのだ。





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