YOU!


DT卒業時の話


「待って待って本当に待って!」
「なに」

騒ぐ私を煩わしそうに見降ろしながら臣くんはやっと手を止める。私は脱ぎ捨てられた臣くんの制服のシャツで前を隠しながら必死に訴えた。すでに私のシャツもキャミも部屋の隅にぶん投げられている。

「百歩譲って付き合うのは良いとしてもなんで急に一足飛びにその、こんなことしなきゃなんないの」
「どのみちいつかするなら今したって一緒だろ」
「心の準備できてない」
「40秒やる」
「それジブリのやつ!」

子供のころ一緒に見た作品だ。なんでネタ的にぶっこんで来るんだろう。
だいたい脱童貞のお世話なんてエロ漫画でおなじみの展開はリアルに持ち込んではいけない。それに私だって初めてだしリードする余裕なんてないもん。

「やだ…ほんとにやだ…」
「名前ちゃん」
「…なに」

珍しく優しく名前を呼ばれて、ちょっときゅんとする。臣くんは優しげな視線で私を見ながら「このまま無理やりするのと同意の上でやさしくするのと選ばせてやる」と言い放った。重たい沈黙が落ちる。

「それDead or Dieじゃん!」
「違え」
「なんか必死になってる感じ童貞感すごい」
「は?」

あ、やばい。そう思った時にはもう遅かった。ハイライトが消えた暗い瞳になった臣くんが体を隠していたシャツを奪い取る。地雷踏み抜いちゃった。
臣くんも童貞かどうかなんて意外と気にするんだなと一生使い道のない知見を得る。これはもう、待ったは無しのやつだと流石に理解した。

「臣くん…」
「…なんだよ」
「あの、せめてシャワー浴びさせてください」

臣くんは一瞬その形のいい眉をひそめて「…行って来い」と言う。
しめた!と思った。浴室の中から鍵をかけて、お家の人が帰るまで籠城してしまおう。いそいそとお風呂場へ向かう私を「名前ちゃん」と臣くんが呼び止めた。

「なに?」
「浴室のカギ、閉めても無駄だから」
「えっ」

冷や汗が背中をつたう。

「浴室は外側から硬貨使って鍵開けられる。中で倒れたりした時のために」
「へ、へぇ〜物知りだなぁ〜」

マメシバみたいだね〜、と震える声で誤魔化して浴室へ急ぐ。腹を括るしかないらしい。追い詰められた私は、覚悟を決めて隅々まで丁寧に体を洗うのだった。
同じくシャワーを浴びた臣くんともう一度ベッドの上で向かい合う。露わになっている上半身は室内競技をしているせいか日に焼けておらず、ほくろがいくつか見てとれた。

「名前ちゃん、こんなにふにゃふにゃだった?」
「遠まわしにデブって言ってる?」
「いや、そうじゃない」

女になってたんだな、としみじみ言いながら胸に手が触れる。それが、始まりの合図だった。
破瓜の瞬間は、もっと衝撃的なのだと思っていた。だけど現実は意外と淡白で、わずかな痛みは感じたものの問題無く臣くんを受け入れた。臣くんは息を詰めたような少し苦しそうな感じで思わず「大丈夫?」と声をかける。

「っまえ、力入れるな、」
「入れてないよ」

快感を耐える様子に、気持ち良いんだ、と理解した。
人間の3大欲求が欠落してそうな臣くんも性欲があるんだなぁと今更ながら意外に思う。臣くんは自分の快感の赴くままに動いて、欲を吐き出した。その余裕の無い感じが彼も10代の男の子なのだと思わせる。私はそこまで気持ちよさを感じられなくて、なんなら前戯のほうが良いくらいだった。口には出さなかったけれど、臣くんもなんとなく察してしまったらしい。「次…ちゃんとするから」と言われた。次とかなくていいですとは口が裂けても言えなかった。行ったらその場で2回目に突入されそうだったから。


そんな、一緒に大人の階段を上った経験(大爆笑)を懐かしく思い出したのは、今まさに臣くんと対峙しているからに他ならない。

試合会場での再会から数カ月がたち、彼が拠点を置く大阪に招かれた。当然のように家に泊まる流れだったから、下着とかムダ毛とかなんとかしてきたけれどあまりに久々なせいで緊張していた。
最初こそ余裕のなかった臣くんも回数と経験を重ねるにつれて余裕を手に入れたらしく、私の反応を伺うようになってきた。それがまるで観察されているようでどこか気恥ずかしく、目を閉じることで見られている意識を無くそうとしていたものだ。だけど、その度に「目、閉じるな」と注意されていたのが懐かしい。

スルッと臣くんの手が私の手の甲を撫でる。指の間や手の平をくすぐるように撫でられてピクッと肩が跳ねた。手を放した臣くんが自分のトップスに手をかけて一気に脱ぐ。そして私の服に手を伸ばした。一気に取り去られるのではなく、ゆっくりと持ち上げられていくのが今から何をするのかということを余計に意識させる。

露わになった上半身を見て、臣くんが微笑んだ。意図は分からない。でも、安心したような笑みだったから、何故か少し泣きそうな気持ちになってしまった。臣くんの触れ方は以前と変わらなくて、本当に私以外の人間が彼の懐に入る余地など無かったのだと思い知る。触れる唇の温度に、強張っていた体から力が抜けた。安心できる存在なのだと再確認する。

臣くん。
ずっと一緒にいてあげるから、ずっと一緒にいてね。






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