Funny


「おいおい、またやってるぜ」

「あれでスリザリンで純血だってんだから驚きだよなぁ」

「ウィーズリー家みたいなもんだろ」



今日も今日とて、私を噂する声が聞こえる。
……まあその気持ち分からんでもない。
私も、私じゃなかったら、スリザリンの人が木登りをしていたら「入る寮間違えてんじゃない」くらいは言うだろう。
でも仕方が無いよね、木登りは楽しい。楽しいことは最高。


「あー風気持ちいい」


そんな私に、もちろん友達という友達はいなかった。
元々群れるのは好きではないし、純血とかどうとかはどうでもいいし興味が無いので、好都合といえば好都合である。

ツルノ家は、先祖代々こういう自由奔放な家だったらしい。
実際母はグリフィンドールの日本人で、父はスリザリン。祖母はレイブンクローのフランス人で、祖父はスリザリン。その前はハッフルパフとインド人のグリフィンドールだか。
寮をコンプリートしている。大陸もコンプリートできそうだ。お見事。
純血云々もあまり重視していないらしい。していないらしいけど、私は生粋の純血らしい。
狙っているわけではないようだが……運命というやつだろうか。うはぁはいはい素敵素敵。
あと、それなりの家らしく、噂によると家は「あれで聖28一族なんだもんな」らしい。
聖28一族がどれだけ凄いのか、どれだけ誇らしいことなのかは分からないけど、父曰く「人間性がクソだと血もクソもないぞ」と言っていたので、血よりも人間性を重視して生きていきたいなと思っている今日このごろ。

けど、それは大変難しいことなんだと、人とあまりかかわらない私は最近知った。


「またやってんのか」

「相変わらずお転婆だねぇ」


下から、ふわふわと浮かぶヒソヒソ話ではなく、はっきりと私に投げ掛けてくる声が聞こえた。
無骨な低いアルトの声と、優しげなテノールの声。確認せずとも声の主が分かってしまうのは少し複雑だ。


「見晴らしがいいからね」

「少しはお淑やかにしたら?」

「なんで?」

「ハルカはスリザリンなんだから」

「ブラック兄みたいにグリフィンドールに入りたいって言えば良かったのかな」

「おっと、それは許さないよ」


エイブリーとマルシベール。
柔らかな物言いのテノールだが、腹黒さが滲み出ている笑顔がマルシベール。
少し乱暴な物言いのアルトだが、育ちの良さが滲み出ているエイブリー。

最近この二人が私に絡んでくるようになった。
彼らの存在を知ったのは去年。2年になってから。どうやらどちらも名家のようで、それなりに顔も整っていることから女性からの人気も凄いらしい。
ブラック兄には負けるだろうけど。

何故私に絡んでくるのか以前聞いたら、「面白そうだから」と声を揃えて言ったのは割りと忘れられそうにない。
けど、双眸に孕んでいる狂気が見え隠れしている以上、あまり親しくはなりたくない。
その狂気はどこから来ているのか、何を意味しているのかは分からないけど、何となくあまり関わらない方が良いと私の勘が言っている。
私の勘はめちゃくちゃ当たるのだ。


「さて」

「どこ行くの?」


木から飛び降りる。
衝撃が足に走るが、この場から抜け出したいのと、彼らと1秒でも会話をしている時間を減らしたいので仕方が無い。


「ブラック弟の勉強を見に行く」

「何故だ?」

「見て欲しいって言われたから」

「ツルノの前にいるのは俺たちだろ?」

「正確には斜め前だけどね」

「……」

「うわこわ無言で杖突き付けないでよ」

「今のはハルカが悪いね」


まじか、今のは私が悪いんだ。
昨日も、その前も、更にその前も。ずっと私が悪かった気がする。
全く、理不尽極まりない構ってちゃんだ。


「ツルノ。俺はいつだってお前に呪文を掛けられる。もちろんただの呪文じゃない、許されざる呪文もだ。……俺は脅しで言ってるんじゃないぞ」


エイブリーが脅しで言ってるんじゃないのはよく知ってる。
いつだか、ポッターと悪戯の話で盛り上がっていたら、後ろからマルシベールの「インカーセラス、縛れ」と、エイブリーの「デパルソ、退け」が聞こえた。
聞こえた頃には時すでに遅し。隣にいたはずのポッターは見えなくなっていた。
何故なら、縛られた私が見事吹っ飛んだからである。
今思い出しただけでも訳が分からない。グリフィンドールであるポッターではなく、友達(?)である私を受け身を取れなくした上で吹き飛ばさせたのだ。二人に躊躇いなんてなかった。大変痛かった記憶がある。
二人はポッターに見向きもせず、横になって身動きが取れない私の前に仁王立ちすれば、


「なんでポッターなんかと喋ってるわけ?」


と質問をしてきた。
質問、というか、一方的な罵倒というか、説教というか、……洗脳というか。
あれ以来、私は呪文学を勉強しまくって、少しでも対抗できるようにと頑張った。
から、まあ、ある意味呪文の掛け合いをしてみたい気持ちはある。


「まあまあ、それくらいにして。僕達はね、ハルカ。君と話をしたいんだ。そして君を知りたいんだよ」

「何故?」

「「面白そうだから」」


まーた声をあわせて。仲いいな本当。
私は深く溜息を吐いて、心の中でブラック弟に謝罪をしながら、もう1度木に登った。



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