浅き夢見じ
「帰りどっか寄んね?」
「あー、いいね。心が休息を欲してる」
「なんじゃそりゃ。なら甘いもんでも食いに行くか?」
「最高。行こ」
物心ついたときには、周りに強面の男の人がたくさんいた。
怖いと思ったことはない──悪いことをして怒られた時以外──し、みんな私に優しくしてくれた。
まだ小さかったであろう私を、ここまで……高校生にまで育ててくれた。
お父さんはお父さんだし、お母さんはお母さんだし、兄ちゃんは兄ちゃんだし、その他の人達は仲間だ。
もちろん本当の家族でないことは知っている。
私とお父さんお母さん、兄ちゃんとの間に同じ血が流れていないと、そう気付いたのもまた物心ついたときだった。
しかし私は自分でも正直呆れるほど楽観的な奴なので、特に気にしたことは無い。前の……本当の家族のことも。
さすがに由緒ある(?)ヤクザの家系だと知った時は驚いたけど、強面の男の人ばかりだったので、まあ納得の方が大きかったというか、ひょっとしたら心のどこかでは分かっていたのかもしれない。
ただ、いくら楽観的な私でも、ここ最近気になることが増えてきた。
お父さんが入院してから、家の中の──組の中の動きが活発になってきたこと。詳しいことは分からないけど。
ついでに兄ちゃんが過保護というか、神出鬼没になってきたこと。
「沙斗梨、どこ行くんだ」
こんな風に。
「兄ちゃん……」
「この辺りは危険だ。……そこの男が沙斗梨を守れるとは思えない。ほら、帰るぞ」
「おーおー……俺、お前の兄ちゃんには逆らわないでおくわ。悪ぃな、また今度行こうぜ」
ぽつりと、私の耳元でそう言う相手の──幼馴染である冬瀬の顔を見る前に、ぐいっと腕を引っ張られた。
目に写るはいつにも増して不機嫌そうな兄ちゃん。
振り返ると冬瀬はこちらを見ずにひらひらと手を振っていた。
……まあ兄ちゃんは確かに怖いから、逆らわないのは利口だと思う。
しかし────
「兄ちゃん、3年生って午後も授業あったよね……?」
「嗚呼」
「授業は?サボり?」
「仕方ないだろう、沙斗梨が午前授業なんだから」
……?
どう頑張っても今の私に理解することはできなかった。
……利口だとは思うが、今回ばかりは休息を欲してる私の味方になってほしかった。
なんて、
「……心の安寧を求めるのなら、俺が永遠に秩序をもたらしてやる。から、他の奴に何かを求めるな」
……あんねいってなんだろう。
よく分かんなかったけど、私は首を縦に振っといた。
ここで横に振っていたら、私の運命は何か変わっていたんだろうか。
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