004
「何か、呪文でも必要なのかな。」

変身のときだってそうだったし。

「でも、さっきの呪文以外はわからないよ…」

取りあえず念願の手袋を手に入れたし、茨を思い切り掴んでみると不思議なことに棘が痛くない。薄手に見える手袋だけれど実際はそう見えるだけで厚いのかもしれない。

「これなら…」

私は少し強気になって茨を思い切り引っ張りちぎっていく。茨を引きちぎると意外なことに塞いでいたのは入口部分だけだったらしい。奥は壁や床こそ茨が蝕んでいるけれど、塞いではおらず私はまっすぐに繋がる道を見つめた。

「ぶにゃあ」

ようやくか、とばかりにがうらが鳴いて茨をよけながら歩き出した。
まぁ確かに、ぷにぷにの肉球で棘なんかを踏んだら痛いもんね。

「がうら、まってよ!」
「にゃあ」

がうらを追いかけて、私も進み始めた
奥へ、奥へ、奥へ、どんどんと進む。だけど、こんなに広い家だったかな。引っ越してここを離れたせいで私はあやめちゃんの家の中を忘れてしまったんだろうか。そんなことを考えながらがうらと共に進むのだけれど、いつまでたっても道は終わりなく続いて辿り着くことがない。ここはあやめちゃんの家なのだし、お父さんもお母さんも、あやめちゃんだって、この時間ならいるはずだ。けれど辿り着かない上にお父さん、お母さんも姿を見せないのはなぜなのだろう。段々と疲れてしまい、足が立ち止まってしまう。どうやら変身したって疲れてしまうらしい。

「あのー!羽川です、誰かいませんかー!」
今の姿を見られるのは恥ずかしいけれど、そうも言ってはいられない。私は意を決して大きな声で呼びかけてみた。しかしあやめちゃんからも、あやめちゃんのお父さん、お母さんからも、誰からも返事はかえってこない。

取りあえず、まずはあやめちゃんを探そう。仮にこれがTVの魔法少女のアニメにある「邪悪な力が何かに手を貸して非日常的なことを起こしてしまっている」というのならば、それは直感だけど、これはきっとあやめちゃんのお父さんでもお母さんでもなく、あやめちゃんが困っているんだ。それに何か不思議な力が加わってこんなことになってしまったんだ。と、そう思ったから。
その私の推理が合っているにせよ、間違っているにせよ、今こうやって声をあげているのに誰も気付かない、そして何よりこの茨が部屋の中を占領しているなんて状況はとてもじゃないが普通ではないに決まっている。となればあやめちゃんだってもしかしたら危ない目にあってるかもしれないのだ。
と。その時だった、どこからかシャボン玉がふわふわ、と飛んで来た。

「あれ、シャボン玉?」

茨が占領する場所に、シャボン玉。なんとも不釣り合いな組み合わせに私は目の前にまで飛んで来た大き目のシャボン玉を見つめると、シャボン玉に何かが映っていることに気が付いた。

「何か、映ってる?」

もしかしたらヒントかも!私はそう思って腕を伸ばすのだが、勢い余ってシャボン玉に触れてしまいぱちん、と割れてしまった。しかし、割れた瞬間頭の中にめまぐるしく映像がざあっと流れ込んだ。それは例えるならば、そう頭の中で映像でも再生しているかのよう。けれど一体何が起こったのか理解出来ず、私はもう一度シャボン玉に触れた。
ぱちん、シャボン玉が割れる。
頭の中に、目の中に、映像が流れ始めた。




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