003
お日様が山の中へと隠れてしまったあと、夜がやってきた。
街灯と月と星の光のおかげで、暗くは無いけれど、夜は昼間と違って静かで寂しい。
私が玄関で靴を履いて扉を開けば、普段家の中で寝てばかりのがうらが外へと飛び出した。
なぜそうなってしまっているかと言えば、さっきのママの話しに時間はさかのぼる。がうらを追いかけながら私はママの言っていた言葉を思い出した。

「めいこ、魔法少女の出番よ!」
「は?、…え、なに?」
「魔法少女の出番、よ!」
「いや、それは、わかるけど」
「じゃあ何がわからないの?」
「えっ、ママ、いや、だって」
「魔法少女になって困った人を助けるんだって指輪をあげた時に説明したでしょう?」
「それは、そうだけど」
「なら大丈夫よ!さ、がうらを外へと出してあげて?追いかけていけばわかるわよ、きっと。何事も経験が一番!ママもあなたと同じくらいの頃はそうだったわ」

とまぁ、こんなやりとりをしたのだけれど私は何も分かっちゃいない。変身の仕方も、そもそもどうやって助けて、何から救うのかも。すべてママは教えてくれはしなかった。なのにママは経験が一番だというのだから大人って理不尽なんだと思う。たとえ、ママと同じときにそうされても、だからこそ、私のときには困らないように説明をしてくれてもいいと思うのに。
そうこう考えると、がうらが私を呼ぶように鳴いた。がうらは隣の家の前で座っていた。私はもう疲れたのかな、と近付くのだががうらは動かない。一度こちらをちらりと見たかと思うと、目の前の建物へと視線を移していた。それはまるで、ここだよ、と言うかのように。私もがうらから建物へと視線を移せば、いの一番に目に入る「瀬名」という表札。そうだ、隣の家は、あやめちゃんの家だ。それに気づけば夕方のあやめちゃんの様子を思い出し、嫌な予感がした。私は居てもたってもいられなくなって、玄関の手前にある門扉に手をかけて開いた。その時、ひやりと冷たい風が私の頬を撫でる。今は春だと言うのに。そのおかしな現象に私は、ぞくりと身が震えて思わず足が竦んだ。怖い。なぜか私はそう思った。

「ぶにゃあ!」

その恐怖を遮るように、耳に届いたのは聞きなれた鳴き声。それは、大丈夫、だと背中を押してくれているように聞こえた。私が一歩、足を踏み入れれば不気味なことに勝手に玄関扉が開いた。玄関の奥は真っ暗で近づかないとよく見えない。勇気を出して足を動かして行き、玄関までたどり着けばやっと家の中が見えた。
家の中は、普通だったらあり得ないような光景が広がっていた。

「なに、これ。」

家の中の壁や床にはびっしりと茨が生えており、それは奥に行くに連れて深くなっていくばかり。どうやってこれ以上、奥に入っていいのか解らない。何かこの茨をどけることのできるものか、それか手でどけて行くか。頼みの綱といえば母親か、この飼い猫がうらなのだけれど、母親は今この場所にはいないし、がうらなんて呑気に座ってこちらを見つめている。それはまるで、まだ?と言っているかのようでなんだか私は、にくらしくなってしまった。

「わかった!行くからそんな顔してないでちゃんとついて来てよね。」

私は、茨を自分の手でどけようと掴んだ。だけど、いばらには見た通りに、とげはあるし、それに当たると痛い。手袋でもして来れば良かった。お母さんに言われた通りに指輪だけはして来たは良いものの、やっぱり何か準備してくるべきだった。指輪で変身って、どうやって。

「あれ、お母さんは何て言ってたっけ?お母さんは、確か。ええと、ええと、……何も言ってなかった!」

くそう、お母さんめ!なんて思わず口が悪くなってしまう。変身、変身といえばどうするんだっけ。テレビでやってる魔法少女系のアニメはアイテムを空に向けたり触ったりしていた気がする。そうよ、アラジンだってランプをきゅきゅっと磨いてランプの精がでたじゃない。私は指輪を触ったり、磨いたりしてみるのだけれど指輪は反応をしてはくれない。うんともすんとも言ってはくれないのだ。相変わらず横で呆れたようにがうらがこちらを見上げている。

「ああ、もう全然反応しないじゃない!」

思い出せ、思い出すんだ羽川めいこ!自分で自分を応援しながら頭の中で必死に考えていると、ふと、言葉が頭の中に浮かんだ。お母さんがいつも口ずさんでいた言葉。そう、言葉が頭に浮かべば、指輪をくれた時、何も言っていなかったと決めつけてしまっていたけれど、お母さんは言ってくれていたような気がした。

「今、舞い開け夢の花、オープン・ユア・フラワー」

その瞬間。その言葉を口に出した瞬間、指輪の中心の玉が眩い光を放ち暗い室内を照らし、私を包んだ。眩しくて私は思わず指輪を遠ざけるように腕を伸ばす。伸ばすと指輪の玉から綺麗な光の筋がすーっと伸びて、私が腕を動かすがままに光の筋が伸びて行く。今はあやめちゃんを助けなければいけないのに――、なんだかそれが面白くて指輪をした右手を動かした。たのしい。きれい。あたたかい。しあわせな気持ちが、光になってるみたい。私の、手に、身体に、足に、そして、頭。ひとつずつ変わる。気づけば光が無くなっていた。
ふと、手を見ればさっきまでしていなかった手袋がされていた。視線を下に下げれば服も違う。靴だって、さっきと違う。もしかして!そう思って、頭に触れれば、何だかいつもと違う。

「変身、できちゃっ、た?」

本当に魔法少女ってやつだったんだ。あり得ないあり得ないと思っていたのに、あんなに否定していたのに、お母さんの話しは本当で。私が次世代の魔法少女で。ああ、変身出来た安心感と驚き、だけど、それ以上にどこかで、すごい!って思っちゃってる私がいた。けれど次の瞬間には、変身したはいいがこれからどうすればいいのか、という疑問と不安。私はもう一度指輪を振ってはみるけれどやっぱり反応はしてくれはしなかった。




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