弟も恋人も、というのは欲張りなのだろうか。
久しぶりの一日休暇が貰えたと言うと、運良く恋人のなまえもその日は休みだと言った。それならばどこかに足を伸ばして2人でゆっくりするのが良い。最近はお互いに忙しく2人きりの時間なんて殆ど無かったのだから。俺としては勇気を出して彼女を誘ったが、予想外なことにも彼女は首を横に振ってみせた。

「サスケくん、この前たまたま会ったけどすごく寂しそうにしてたよ。イタチってば最近長期任務とか里の外の任務ばかりでずっと帰ってないんでしょう?たまには1日家にいてあげた方が良いんじゃないかな」
「……サスケに何か言われたのか?」
「ふふ、まあね。次の休みは修行を見て貰うからなまえは兄さんをとるなよ!って」
「あいつ……。すまない、嫌な思いをさせたな」
「ううん、全然。可愛かったもの」

弟は愛おしい唯一の兄弟だ。何かと俺の後ろを子ガモのようについて歩いては頬を染め嬉しそうな顔をする。兄の自分が言うのも何だが、確かにとても可愛いと思う。
とは言え、多忙を極める任務続きで大切ななまえとの時間が削られていたのもまた同じ事実で。その埋め合わせをしたいという気持ちも嫌と言うほどにある。せめて夜だけでも…否、夕方からなら会えるのではないか。そう思案していると「わたしも忍具買いに行きたいし、たまには母さん達の手伝いでもしなきゃね」と言うなまえの言葉についに俺は何も言えなくなってしまった。



「兄さんはやっぱすごいや!オレじゃ全然歯が立たない」
「アカデミー生のお前と暗部の俺では力の差があって当然だ。だがサスケも動きが良くなったな」
「へへ。兄さんがいない間に修行したから!」

久方ぶりに家族全員が揃った朝食も程々に、俺は約束通りサスケの修行に付き合っていた。時々危なっかしいところもあり、俺のいないところで怪我でもしているんじゃないかと心配になったが、弟も立派な男だ。失敗して少し傷を作ったくらいでは泣かなくなった。

「そろそろ良い時間だろう。母さんも出かけると言っていたし、このままどこか昼ご飯を食べに行こうか」
「うん!オレもうお腹ぺこぺこだよー」

弟と並んで久しぶりに人で賑わう商店街に足を踏み入れた。この先には俺の好きな甘味屋の他に食事処が幾つかある。弟に何が食べたいか聞こうと目線を向けると、視界の端に見慣れた影が映った。

「……」
「どうしたの?兄さん。…あ、なまえだ」

なまえとシスイだ。丁度買い物を終え店から出てきたらしい2人は何やら談笑をしているようである。シスイはいかにも任務の合間に来たとでも言うような格好であるが、対するなまえは私服姿である。膝までの長さのスカートが風に揺れるのがここからでもよく見えた。2人は俺達に気づく事もなく、店の角を曲がり見えなくなっていった。

「…兄さん?」
「ああ、何でもない。サスケは何か食べたいものはあるか?」
「うーん、俺は兄さんと行くならどこでも良い!」

やはり弟も恋人も、というのは欲張りなのだろうか。俺の中でじわりじわりと渦巻く何かをその後食事処に入ってすぐに出された冷や水で強引に流し込んだ。



時刻は夕方8時を過ぎた。夕食を終え、修行疲れかサスケは風呂も早々に居間で微睡み始めている。なまえはあの後、シスイとどこかへ行ったのだろうか。それともすぐに別れて両親の手伝いをしていただろうか。俺の中にはあれからずっとなまえの事ばかりが浮かんでいた。
今なら…。今ならもう家にいるだろうか。俺は居ても立っても居られなくなり「少し出かけてくる」と不思議そうな顔をする母に伝え足早に家を出た。向かう先はなまえの家だ。



なまえの家の前に着くと、彼女の部屋だけ明かりが点いていた。随分静かな気がするがご両親は不在だろうか。俺は玄関前に辿り着き軽く戸を叩く。すると家の中から「はあい」と気の抜けた彼女の声がして思わず口元が緩んだ。もしここにいるのが俺じゃなかったらどうするんだ。

「父と母なら出かけて………ってイタチ?」

開いた戸から顔を覗かせたのは間違いなくなまえだったが、その姿は普段とは少し違っていた。普段は結われている髪が胸のあたりまで下ろされ湿り気のあるそれは艶を強調している。そして薄い生地のTシャツとカーディガンに淡い色のパンツを履いている姿は一目見て分かる、所謂風呂上がりの姿だ。

「どうしたの?こんな時間に」
「いや…何か用事があった訳ではないんだが、」
「…ふうん?じゃあわたしに会いに来てくれたんだ。サスケくんを置いて?」
「…やっぱり気にしていたのか?」
「ごめんごめん。お兄さんを揶揄っただけよ」

俺はくすくす笑うなまえの腕をそっと引きその小さな身体を両手で閉じ込める。彼女の髪からは仄かに花のような良い香りがした。背中にゆっくりと回される細い腕の感触。こうしていると、目の前の彼女は確かに自分のものであると実感ができる。

「何かあった?」
「お前と2人きりの時間がなかなか取れなかったからな。その埋め合わせだ……いや、違うな。ただ俺がこうしたいと思っていただけだ」
「…今日、忍具屋でわたしとシスイさんの事見てたんでしょ。わたしは気付かなかったけどシスイさんは気付いてたって。鬼みたいって笑ってたよ」
「……シスイのやつ」
「それと、こうしたいと思ってたのはわたしも同じよ」
「ああ…。今日はお前のおかげでサスケも満足していた。だから、今度は2人で過ごそう」
「うん、ありがとう」

もう一度彼女をきつく抱きしめると、名残惜しいと思いながらもその身体を離す。どこか物足りなそうな顔でお茶を出すという彼女をやんわりとあしらって家の中へと戻らせる。いくら忍として鍛えられているとはいえ風呂上がりに髪も乾かさずにいれば風邪を引くかもしれない、と言うよりはその艶やかな色香に当てられては劣情に駆られてしまうに決まっているからだ。
帰り際に次の休みが楽しみだ、と言うと流石彼女は悟ったようで顔を赤くしてぴしゃりと戸を閉めた。


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