大変な事態である。わたしはお風呂上がりにバスタオル1枚を体に巻いた状態のまま、自分の部屋のソファに沈み込んだ。いつもなら勿論このようなはしたない格好で風呂場を出る事などないが、それどころではない。
なんと体重が2キロも増えていたのである。脳裏をよぎるのは最近食べた食べ物たち。新しく出来た甘味処のあんみつパンケーキ、女子会と称して思う存分飲み食いをした焼肉、イタチと行くとついつられて食べ過ぎてしまうお団子…。後悔や罪悪感がじんわりと支配していく。年頃の女子なるもの、やはり体重は気にしてしまうもの。付くところには付いて、それ以外はスラリとした体型でいたい。忍として任務にあたる以上、体力を付けるという意味でも基本的な食事は欠かせない。明日からは身体を動かす事を意識して、せめて甘いものだけでも控えようとわたしは心に固く誓った。
決意を固めたわたしは、こんな日は夜食に手が伸びる前にさっさと寝てしまおうと寝巻きに着替えて濡れた髪をドライヤーで乾かすことに専念した。それからもう一度リビングに戻ると先程までわたしが沈み込んでいた場所に新たな人影が見えた。

「イタチおかえりなさい。帰ってきてたんだ。ごめんね気付かなくて」
「ただいま。ドライヤーの音がしたからな、気にするな」
「お風呂は沸いてるよ…っていうか何その袋?」

その人影は同棲しているイタチで、今日は任務で帰りが日を跨ぐかもしれないと言っていたがどうやら思ったよりスムーズに帰路につくことが出来たようだ。彼の隣に座ってちらりと様子を窺うと、やや疲れた顔をしているが何やら手元にある紙袋をがさがさと熱心に開封しているようだ。よく見ればその紙袋には見慣れた甘味処の文字が印刷されている。

「ああ、帰りにいつもの甘味処の店主に会ったんだが、持ち帰り用の団子の賞味期限が迫っているとかで持たされたんだ。金は払うと言ったが要らないの一点張りだったよ」
「へえ。きっとイタチがいつも贔屓にしてるからね」
「なまえもだろう?」
「わたしはイタチが好きだから好きなの」

イタチは何だそれは、とくすくす笑いながら串に刺さった団子を取り出した。任務の後はお腹が空くし疲れた時こそ甘いもの。少し重い気もするが、彼の夜食には丁度いいのではないだろうか。とは言ってもイタチは元が細いから少しくらい重くても問題はない気がする。そういえばイタチって甘いものが好きなわりには全然太らない。いや太ったイタチはちょっと嫌だけど。
まるでハムスターのようにぱくぱくと団子を食べ始める彼を気付けばじっと眺めていた。

「…………」
「…どうした?」
「ううん、気にしないで?」
「そんなに見られると食べづらいんだが」
「食べづらいって言うわりには凄いスピードで食べてるけど…」
「なまえも食べたいのか?これで最後の一本だが…」
「ありがと…って、違う!」

どこか惜しいような素振りをしながらもおずおすと団子を差し出してくるイタチに思わずそれを受け取ってしまったが、そうではない。そうではないのだ。

「イタチはいくら食べても太らなくていいなあって思って…。お団子が欲しいわけじゃないから。はい、あーん」

三色に彩られた団子を今度はわたしがイタチの口元へそっと差し出す。イタチはこういう事には無頓着というか、なかなかの鈍感だから大して気にしないタチなのは知っている。大人しく開けられた口に団子を差し出すと、一番上に刺さった桜色のそれをぱくっと口に入れた。なんだか餌付けしているみたいでわたしの方がドキドキしてしまう。

「イタチかわいい。小動物みたい」
「む……」
「ほら、あと2つあるからゆっくり食べていーよ」

最近はお互いの時間がなかなか合わずにこうして家でくっ付いていられるのは随分久しぶりな気がする。きっとイタチが怪訝な顔をしながらも咀嚼を続けているのは彼もそう思っているからだろうか。

「…それで、なまえは体重を気にしているのか?別に太ってなどいないだろう」
「それが太ったから気にしてるのよ」
「そうか?俺にはそうは見えないが」

イタチは真面目な顔をしてわたしの脇腹をむに、とつまんだ。あまりにも自然の動作なものだからわたしは思わず反応が遅れた。びくっと身体が大袈裟に震え、手に持っていた残りの団子を串ごと落としそうになったが、イタチの手がすかさずそれを掴んで紙袋の上に置いた。そしてまたわたしの脇腹に手を置き、心なしかどこか楽しそうな笑みを浮かべている。こ、こいつ…!

「ちょっ、突然触るなばか!」
「お前が太ったと言うからだろう。やはり俺にはわからないが」
「わ、わかったから!手離して…擽ったい」

脇腹というのは何故か人に触られると弱い部分で、昔アカデミーでも人の脇腹に後ろから触れて驚かせるというのが流行ったような。そんなどうでもいい事を思い出しながらも彼の手から逃れようと身を捩る。が、どうやらスイッチの入った彼からは逃げられない。やられっぱなしが悔しいわたしは隙を見て自分の両手をイタチの脇腹に伸ばした。…やっぱりわたしよりずっと細いじゃないか。そんな恨みも込めて、左右同時に脇腹を擽った。

「えいっ」

どうだ、これで流石のイタチも観念するだろう、と彼の表情を伺うが相変わらず優しく微笑むだけだ。

「悪いな、俺は昔から効かないんだ」
「えっ……」

思わず固まったわたしにイタチは更に仕返しだと言わんばかりに、両手でわたしを擽ってきた。

「もうっ意地悪!離してっ!」
「先に俺をからかったのはなまえだろう。お互い様だ」
「これのどこがお互い様よ!」

耐えきれなくなったわたしはイタチの胸へ倒れこむように体重を預けた。イタチはようやく擽る手を止めてわたしを抱くように背中に手を回した。ぽんぽんと背中を撫でる手が気持ちよくて、それからなんだかだんだん馬鹿らしくなって笑いがこみ上げてきた。彼もつられたように笑う。あーあ、せっかくダイエットを決意したのに、誰かさんのせいで疲れてしまった。まだ残っている2つの団子は半分こにして食べたってバチは当たらないだろう。


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