「ただいま」
「おかえりなさい、イタチ」

わたしは忍ではないから、里の為に身を呈して戦う彼らの力にはなれない。だからせめてこの家を彼が最も安らげる場所であるように、と日々の任務を終え帰宅した際には出来る限りここでこうして出迎えるのだ。
今回は2週間ほどの里外での任務だと聞いていた。イタチは今の木の葉で片手の指に入っても可笑しくないくらいにとても優秀な忍だと聞いているから、もっと大掛かりな長期任務も珍しくはない。それでも彼はこうして必ず五体満足でこの家に帰ってきてくれることがわたしを酷く安心させるのだ。

「ご飯用意してあるけど、先にお風呂入る?」
「ああ、悪いがそうするよ。それと」
「…どうかした?」
「いや、お前に土産だ」

そう言ってイタチはおもむろに手持ちの荷物から可愛らしい和紙の包みを取り出すと、それを丁寧に開いてみせた。すると中から出てきたのは小ぶりで上品な桃色の花があしらわれた、いかにもお高そうな髪飾りだ。

「綺麗…」
「ああ。任務先で時間を貰った時に街で見つけたんだ。なまえに似合うと思ってな」
「嬉しい!……でも、」

でも、もう受け取らないよ。わたしは困ったように笑う。だってこれは初めての事ではないのだ。付き合い始めてからのここ1年くらい、イタチは遠方での任務に出ると“土産“と称して何かとわたしを着飾るものを買ってきた。それは今回のような髪飾りであったり、ネックレスやイヤリング、口紅や香水などの化粧類だった時もある。それも恐らく値の張るような上質なものばかり。エリートであるイタチの稼ぎからすれば大したことはないのかもしれないが、わたしにとっては軽々しく手を伸ばせない代物だ。彼がどのような顔をしてこんな女性物の類を購入しているのか大変気になるが、毎度こんな物を貰っていては流石に申し訳ないどころの話ではない。

「気に入らないか…?」
「違う、そうじゃないけれど。いつもいつもこんなに貰ってばかりなのは申し訳ないからもう貰わないって決めたの。わたしはずっとここにいるから、貴方に返せるものなんて精々良いところのお団子くらいでしょう?」
「俺は別に見返りを求めているわけじゃない。俺がなまえにあげたいから買ってくるんだ。それにここでこうしてお前が出迎えてくれることが、俺には十分幸せな事だ。…駄目か?」
「うう……イタチ、貴方わたしがその顔に弱いってわかっててやってるわね!?」

クスクスと笑う呑気なイタチは、貰ってくれと半ば強引に髪飾りをわたしの手に乗せた。わたしはまだ腑に落ちなかったけれど、わたしに土産を渡して満足したのか、そそくさと風呂場へ向かっていくイタチの幾らか上機嫌な背中をただじっとりと目で追う事しか出来なかった。



「お、イタチの彼女サン」
「…カカシさん。いい加減その呼び方はよしてください」
「ゴメンゴメン、なまえちゃんだったね。元気してた?」
「お陰さまで。カカシさんもお元気そうですね。火影辞めてからなんかスッキリしました?」
「おいおい、さっきの仕返しか?その言い方はよしてよ。そーゆーとこイタチにそっくりだねえ」
「ふふ。ありがとうございます」

仕事を終え買い物帰りに道端で会ったのはカカシさんだ。つい先日火影の座を次世代に譲って今は元・火影様である彼は、イタチの先輩にあたる人物だ。イタチと正式に付き合う前や、付き合った後も、何かとわたし達を気にかけてくれており心の中ではとても感謝している。火影に就任してからは職務がかなり忙しかったようだが最近はのんびりと平穏に過ごしているようで、カカシさんにはそういう生活の方が似合っているのではないかと密かに思っている。

「なまえちゃん、髪に落ち葉付いてるよ。なまえちゃんから見て右の方」
「えっ嘘……あ、ほんとだ。ありがとうございます」
「…それにしてもさ、その髪飾り、イタチからでしょ」
「そうですけど…どうして分かったんですか?」
「いや〜〜イタチの事よく知るヤツなら分かると思うよ?アイツも流石だよねえ」
「?」

マスクをしていてもカカシさんが笑っているのがよく分かる。目は口ほどにものを言うとはよく言ったもので、今のカカシさんはまさにそんな感じだ。
わたしは何かおかしな所でもあるかと、さっと手鏡を取り出して髪飾りの辺りを確認する。が、やはり特に気にかかるような所はないはずだ。

「その鏡もイタチから?」
「え…そうですけど…。あっ!別にこれはわたしが強請っている訳じゃないんですよ?イタチがお土産だって買ってきてくれるんです…。気持ちは嬉しいけど、もう良いって言ってるんですけど」
「でも嬉しいでしょ?プレゼントって」
「そりゃ、まあ…すごく嬉しいです。イタチはセンスも良いし、いつもわたしが気に入るものを選んでくれるんです」
「うんうん。イタチはねー、そうやってなまえちゃんに自分で買い与えたものを使って貰えるのが嬉しいんだと思うから良いんじゃない?」
「それは誰だってそうだと思いますけれど、流石に頻繁に貰うのは申し訳ないです」
「違う違う、イタチはなまえちゃんが手にするもの全部を自分であげたもので見繕いたいんでしょ。だって最近のなまえちゃん、いかにもイタチ好みって感じだよ」
「は、はあ…?」
「なまえ、カカシさん」
「あ、ウワサをすれば」
「こんばんは。そろそろなまえが帰ってくる頃かと思ったので」

いつの間にかカカシさんとの立ち話も長くなってきた時、ふとわたしの後ろから聞き慣れた彼の声が聞こえてきた。
今日は任務は休みだと言っていたから家にいるだろうとは思っていたが、まさか迎えにきてくれたのだろうか。

「それ、持つよ」
「え、いいよ。これくらい持てるよ?」
「いや。持つ」
「お熱いね〜。じゃ、お迎えも来た事だし俺も行くか。じゃあねおふたりさん」

今しがた購入して来た夕飯の材料が入った袋を取り合っていると、カカシさんはひらりと片手を振って歩いて行ってしまった。その際イタチに何か耳打ちしていたようだがわたしには聞こえなかった。ちなみに買い物袋はいつの間にかイタチに奪われてしまっていた。

「………」
「カカシさん、何て?」
「……いや、大した事じゃないよ」
「えー何それ。余計に気になるじゃない」

イタチは少し照れているようだった。きっとカカシさんに何か冷やかされたのだろうか。
まさかわたしがカカシさんに遭遇した時点でもうイタチは建物の陰から満更でもない顔で聞き耳を立てていた、なんてわたしには知る由もない。


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