遠い存在だと思う。その目を引く容姿は勿論だが物腰も穏やかで人当たりも良くまさに名を体で表しているみたい。わたしはボーダーには所属していないから詳しくは知らないけれど、どうやらボーダー内での評価もなかなかのものらしい。という噂を聞いた。
そんな彼がなぜ特筆する点のないわたしの隣を歩いているかと言うと、それはただご近所同士の古い知り合いであるからというだけの理由だ。

「別に送ってくれなくて良いのに」
「なまえの家は本部へ行くまでの通り道なんだから良いだろう?」

夕日を背景に爽やかな笑顔でそんな風に言われるとわたしはもう何も言えなくなる。
口では突っ張ねるけれど、わたしは彼と歩く帰り道は嫌いじゃない。それはわたしが心の中でずっと温めてきた彼に対するこの感情のせいに違いない。

「オージさ、最近は前よりもボーダー行くようになったよね。忙しいんじゃない」
「そうだね。次のランク戦で初めて戦う相手がいるんだけど、ルーキーなのになかなか厄介なんだ。データ収集しなくちゃね」

自分から聞いたもののランク戦とか、そういうの、全然わかんないし。前を見たままふーんと心ここに在らずな返事をすると、隣から王子が小さく笑う声が漏れた。彼の方を見ると案の定 口に手を当ててまるで何処かの王子様みたいに笑う彼の姿があった。ムカつくくらい出来たその姿にじっとりした目線を向けると、彼はごめんと言ってまた笑った。

「なまえってすぐ顔に出るよね。拗ねた?」
「拗ねてない!」
「最近ボーダーの事をよく聞いてくるようになったよね、でも話すと嫌そうな顔してる」

ぺらぺらと話す王子にわたしは頭の中では?とか何それ、なんていう否定ばかりが浮かぶ。彼女でもなんでもないのに、そんな訳あるか。とでも言い返せれば良かったのに わたしにはそれが出来なかった。

「なまえのそういう所は嫌いじゃないよ。でも言葉にしてくれた方がぼくは嬉しいかな」

一歩先で歩みを止めた彼がわたしに目線を合わせるように少し腰を屈めたかと思うと、またすぐに前を向いて歩き出してしまった。はっとして周りを見るともうわたしの家に着いていた。頭がうまく働かなくなったわたしは スタスタと離れていく王子をぼんやりと見ていたけれど彼の姿が夕日へ飲まれてしまう前に、一歩だけその姿に近付いた。

「オージ、ボーダー頑張って。また明日」
「……ありがと。また明日」

その姿が完全に見えなくなるまで、わたしはその背中を見つめた。明日になったら、またちゃんと話をしよう。


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