米屋が寝ている。それはもう、随分と気持ち良さそうに。つい先日 学校の定期テストが終わったところで気が抜けたんだろうか、なんて思ったけれどこいつはそんな気を張るほど勉強なんてしていなかった事に気付いてしまった。
今日はせっかく久しぶりの個人戦の約束をしていたのに。待ち合わせ時間を過ぎても一向に姿を現さないものだから三輪隊の作戦室に行ってみたらこれだ。なぜか三輪くんにすまないと謝られたが、当の本人はぐっすりと夢の中である。

三輪くんに部屋にいてもいいと言ってもらえたので少しの間、眠っている米屋の顔を観察していたけれどそれも飽きてしまった。なんとなく彼のカチューシャが気になってそっと両手を伸ばす。奥にいる三輪くんがちらっとこっちを見たのが視界の端に映ったけれど、気にしない。
起きないように、そっと。
上手くカチューシャを抜き取ることに成功したわたしはそれを勝ち誇った気分で自分の頭に付けた。カチューシャなんていつぶりだろう。随分と懐かしい気がする。
抑えるものがなくなった米屋の前髪は中途半端に目元を隠していて、随分と雰囲気が変わっていた。なんというか 大人っぽい。

「三輪くん三輪くん、見て」
「……変な感じがするな」

三輪くんが不思議なものを見るような目でわたしと米屋を見た。なんだか少し恥ずかしい。

「米屋起きそうにないからもう行くね。もし起きたら先に個人戦のブース行ったって伝えてもらってもいい?」
「ああ」
「あとカチューシャは人質として預からせていただきます」
「案外気に入ってるんだな」
「わかっちゃう?」

わたしは黄色のカチューシャを付けたまま、三輪隊の作戦室を出た。







「ん、みょうじそれ槍バカのだろ」
「そう!どう?似合う?」
「けっこーかわいい」
「ええ、絶対バカにすると思った!」

個人戦のブースへ向かっていると出水に会った。米屋と仲の良い出水ならこれがすぐヤツのものだと気付くだろうと思っていたけれど、さすがだ。

「槍バカは?」
「わたしと個人戦の約束取り付けたくせに作戦室でぐうぐう寝てた」
「まじか。じゃあおれとやる?」
「暇なの?」
「暇なの」
「いいよ。じゃあやろ」

今度は出水と2人で歩き始める。その途中何人か通りすがった人にはみんなして「それ米屋のだろ」と言われた。なんでわかるんだ。





「よーし、じゃあ何本勝負にすっか」
「うーん…じゅっぽ「おいこら」」
「「あ」」

いざ個人戦!というところでついにカチューシャの持ち主が現れた。彼は随分と視界が悪くなっているようで、正直ぱっと見た感じでは誰だかわからない。

「米屋おはよ」
「おー。つうかなんでそれお前が付けてんの」
「似合うでしょ。さっき出水もかわいいって言ってくれた」
「は、何だそれ」
「米屋くんはどう思います?」
「なんて言ってほしい?」
「似合うって言ってほしいです!」
「正直かよ。まー冗談抜きでかわいいとは思うけど」

出水も米屋も今日はどうしてしまったというのか。いつもならゲラゲラ笑ってきそうなのに。なんだか居心地が悪くなってしまう。

「みょうじが俺のものーって感じがして良い」
「何それ」
「察しろよな」

ほんとにどうしたの、意味がわからない。出水も隣でニヤニヤ口元を緩ませるのはやめてほしい。わたしはこの空気に耐えられなくて、とりあえず元凶のカチューシャを外すことにした。
しかし何故かそれを米屋に阻まれてしまった。

「今日一日それ付けとけな」
「なんでよ!さっきから米屋よくわかんないからヤダ。外したい」
「良いから。それで歩き回って色んな人に見せびらかそーぜ」
「槍バカ楽しそうだな」

個人戦の約束はどこへ行ったのやら、あれよあれよと引き摺られることになってしまった。

そしてわたしはこの後出会う犬飼先輩や 珍しく本部にいた迅さんに散々いじられて恥ずかしい思いをすることになる。


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