出水に誘われて太刀川隊の作戦室へお邪魔する事になった。
今日は非番でさらに比較的に本部にいる率が高い太刀川さんは別件で出かけているらしい。やっぱりA級1位ともなると多忙なのが聞かずとも伝わってくる。わたしの前を歩いている出水だって、わたしよりも学校の欠席や早退がずっと多かった気がする。でも確か、そんなでも成績は一丁前に良かったからきっと彼は要領が良いのだろう。B級下位から中位に留まっている隊のオペレーターであるわたしは 防衛任務と緊急時以外で召集される事はあまりないのに成績は彼よりずっと下だ。そんな事を考えていたら目の前で部屋の扉を開ける彼の背中が、なんだかすごくかっこよく見えてしまった。

「どうした?ボサっとしてないで入れよ」

出水はそそくさと室内に入って行くけれど、わたしは自分以外の隊の作戦室に来ることがほとんどないだけに、なんだかこの空間に足を踏み入れるのは緊張する。

「そんな緊張すんなって。今日マジで誰も来ないぜ」
「うん…わかってはいるんだけど」
「まあとりあえずそこ座れって。今プレイヤー繋ぐから」
「ありがとう。あ、これ…お菓子買ってきたから良かったら柚宇ちゃん達と食べて」
「おーおー。そんな気遣わなくても良かったのに」

お菓子の紙袋を渡してから、テレビの前に置かれたソファの端っこに腰を下ろす。今日はわたしが前から観たいと言っていた洋画のDVDを借りたという出水から、一緒に観ようと誘われていたのだ。本編は基本的にアクションシーンがメインだが、主人公の男女の恋愛も描かれていて何せそこに出てくる俳優がかっこいい、とクラスの女子の間でも密かに話題になっていた作品だ。それを出水が借りたというのはちょっぴり驚いたけれど、オペレーターの柚宇ちゃんや はたまた実家のお姉さんの影響もあるのかなあと考えていた。






主題歌とともに画面にはつらつらとエンドロールが流れている。読めもしない英字をぼんやりと目で追ってみたけれど、やっぱり落ち着かない。
2時間とちょっと。短いようで長く感じられて、なんだかどっと疲れてしまった。正直映画の内容なんてこれっぽっちも入ってこなかった。それはすぐ隣に出水が座っているという緊張感と、洋画ならではと言うか、予想以上に主人公達の甘いシーンが多かった映画のせいだ。ふたりきりの部屋で互いの唇を無我夢中で貪り合う男女の姿を見て こんなに気まずい気持ちになってしまうのはわたしだけだろうか。出水の様子を伺いたかったけれど、何せ隣を見る余裕すらなかった。

「ふ〜、結構面白かったな。おれ最後は主人公死ぬと思ってたわ」
「そうだね…」
「……みょうじ 緊張してる?」
「え、あっ別にそんなんじゃないよ!ないけど…なんかちょっと色々、予想外で」

プレイヤーを操作してからテレビの電源を落とした彼は、何でもなさそうな顔でこちらを覗き込んできた。わたしは慌てて身振り手振りで否定したけれど、これじゃあまるで、緊張してましたと認めているようなものだ。

「はは、焦りすぎ。でもまあお前にこの映画はちょっと早かったかもな」
「何それ!ていうか出水は緊張しなかったの!?最後のシーンとか!」
「やっぱ緊張してたんだ?」

顔赤くなってんぞ、と言われてわたしはもう消えてしまいたくなった。思わず顔を両手で覆うと隣からケタケタと笑い声が聞こえた。彼には動揺なんてこれっぽっちも見られなくて、所詮映画の演出に過ぎないのに 考えすぎてしまっている自分が恥ずかしくなってきた。

「ねえみょうじ」
「なに」
「おれ緊張はしなかったけどさあ、ちょっと興奮しちゃった」
「はあっ?ちょ、しちゃった じゃないでしょ!」
「おれとお前2人っきりだししない方が無理だろ」

顔を見せろとばかりに彼の両手がわたしの腕を強く引っ張った。悪あがきと分かりつつも赤くなっているであろう顔を見られたくなくて抵抗したものの、力で勝てる訳もなくわたしの両手はあっさりと捕まってしまった。数十秒ぶりに開けた視界は予想以上に目の前まで近づいていた出水の顔を捉える。黄金色の双眼が、わたしを真っ直ぐと見ていた。

「みょうじはどーせ知らないだろうけどさ、お前が観たがってた映画借りたのも、ここに誰も来ない日にわざわざ誘ったのも全部わざとって言ったらどうする?」
「い、ずみ…?」
「嫌だったら拒んでいいからな」

ソファの端で固まっていたわたしに、彼がさらに近づいてくる。どうしてかその姿から目を反らせなくて、拒む気も起きなかった。その理由ももう頭の中では嫌というほどわかってしまっていて。こんなの、嫌じゃないに決まってる。嫌だったら2人で映画なんて最初から見ないしそもそも誘いになんか乗らない。全部わたしが出水を、好きだからだ。そう言いたかったけれど その言葉がわたしの口から出ることはなかった。彼の手はいつの間にかもう、わたしの背中に回っている。

「いいの」
「…いいよ」
「好き」
「うん。わたしも、好き」

そう言って唇を重ねたら 脳が溶けていくように思考が朦朧として、身体中が熱を帯びていった。結局わたしも彼とおんなじで、ちょっぴり興奮なんてしちゃったのかなあなんてぼんやりと思った。


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素敵な企画に参加させていただきました!


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