「俺さあ思ったんだけど」
「うん」
「秀次でもあんな顔すんだなって」

ホームルームが終わってから日直の仕事をこなしていた時だった。夕日が差してきた教室にクラスの人はもう誰も残っていなくて、わたしと同じく今日の日直である米屋の2人だけだ。さっきからグラウンドの方からサッカー部がアップをする掛け声がよく聞こえてくる。

「あんな顔ってどんな顔よ」
「なんつーかさ、緩んだ顔?」
「…それ秀次くんに言ってみたら」
「それは無理。こえーわ」

米屋が眉を下げてケタケタと笑う。
緩んだ顔、かあ。たしかに基本的に秀次くんは無表情か仏頂面のどちらかで笑う事なんてほとんど無い。だけどそんな表情の変化が小さい中でもほんの少しだけ優しい顔をしたり、照れたような顔をする事はある。彼だって普通の男子高校生なのだから。


「でもなんで急に?」
「この前帰りに課題机に入れっぱな事に気付いて学校戻ったらなんとそこには秀次となまえがいたのを目撃しちゃって。帰る準備してたっぽいけど」
「…………」
「ちょっくら見てたワケ。そしたら秀次が突然自分のマフラー外してさあ」
「まって、それって」
「なまえに巻いてやって〜そんで」
「ちょっと!米屋!槍バカ!」
「ちゅーしてた」
「………………しぬ」

見られてたなんて思わなかった。よりによって米屋に。それは寒い日だったのにマフラーも手袋も忘れた一昨日の事だ。
思い出しただけで顔が真っ赤になりそうだと言うのに、誰かに見られていたなんて。日誌を書いていた手を止めて思わず両手で顔を覆う。隣から米屋が笑う声が聞こえてきて、穴に埋まりたいというのはまさにこういう時に使うものだと思った。

「まあお前たちがラブラブなの見て安心したわ。なまえはともかく秀次に彼女とか絶対長続きしないと思ってたからよ。こりゃ弾バカの勝ちだな〜」
「あんた達もしかして賭けでもしてたの…」
「あっヤベ、これ秘密事項だった」
「…ばかじゃないの。もう今日で米屋の株だいぶ下がったから。これからは米屋くんって呼ぶ」
「おいおい、俺たち親友だろ!」
「間違っても元々親友なんかじゃない!」
「と、思うじゃん?」
「いや違うから!」

ていうかさっきから全然仕事してないじゃん。ジュース奢ってやるからなんて言って調子のいい奴め。

すると突然教室の前の扉が開いて、思わずわたしも米屋もビクッと跳ねた。


「…まだやっていたのか」
「秀次くん、」

そこにいたのは秀次くんだった。

すると散々サボっていた米屋があとは俺がやるから帰った帰った!なんて一丁前に気を遣ってきた。
秀次くんは怪しむような顔をしていたけれど、ジュースを奢らなきゃいけないのはわたしの方かもしれない。ありがと、と米屋に手を振ってから秀次くんと2人で教室を出た。



「今日はマフラーも手袋も持ってきたよ」
「まだ寒いんだから当たり前だ」
「でもこの前は、ありがとうね」

そう言って一昨日と同じ場所で、今度はわたしから秀次くんにキスをした。
彼は一瞬目を見開いて驚いたようだったけど、すぐに照れたように目を逸らした。
たしかに緩んだ顔だなあ、なんて思ってそれがさらに愛おしいと感じた。


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