わたしだけが昨日に取り残されているみたい。

バレンタインデーを終えた2月15日の今日。昨日あれだけ浮足立っていたのが嘘みたいにボーダー本部はいつも通りの日常を取り戻していた。なんだかほんの少しだけ寂しくなってしまう。昨日のことがぜんぶ夢だったんじゃないかと錯覚してしまうから。
昨日はオペレーターをはじめとした女の子たちと可愛らしいラッピングが施されたチョコレートやお菓子を持ち寄って交換をしたり、はたまた普段から仲良くしてもらっているゾエくんや当真くんに配ったり… それはもうバレンタインデーを存分に満喫したのだ。
でも、重要なのはその後で。
いつもの流れでカゲと帰宅していたとき、わたしは2人きりの今しかないと思ってチョコを渡した。するとカゲが珍しく優しい表情をするものだから、何回も失敗したけれどめげずに作って良かったなあ なんて思った。それからはもう、トントン拍子だった気がする。カゲの家にお邪魔して、彼の部屋に入るなりキスをされて、それから。



「おい、聞いてんのか。オメエの耳は飾りもんか?」
「わぁっ!カ、カゲ……びっくりした」
「何回も呼んだ」
「ごめん」
「だらしねえ顔してたぞ」
「は、えっ嘘…」

なんてタイミングで現れるんだ。しかしながらだらしない顔をしてしまっていたのは否定できない。だって、昨日の今日だ。わたしとカゲは初めてそういうことをした。思い出しただけで顔が熱くなっていくのがわかった。
ちらりとカゲを窺ってみると、彼は至っていつも通りだ。あれ、なんでわたしだけこんなに動揺してるんだろう。
カゲはそれからもごくごく普段通りに面倒くさそうに鞄を持って面倒くさそうに歩き出す。

ここでわたしは1つの仮定をした。
もしかして昨晩のあれは本当に夢だったんじゃないか。
考えてもみれば昨日は昼間に騒ぎすぎたせいでかなり疲れていたし、正直カゲと2人になってからの記憶も途切れ途切れ抜けている。
もし、本当に夢だとしたら、めちゃくちゃ恥ずかしい夢を見たんじゃないだろうか。
実はわたしは欲求不満だった?いやいやそんな。

「夢…」
「あ?」
「あ、いや、なんでもないよ…」

さっきまで散々浮かれていた心が一気に冷めてきて、同時に自分が恥ずかしくなってきた。こんなに舞い上がってばかみたい。早く帰って布団に潜り込んでしまいたい。

「なまえ」
「ん〜なに」
「夢じゃねえからな」

隣を歩いていたカゲが、ぎろりと睨んでくる。その目が わたしをまっすぐ射抜いていた。

「え…」
「夢になんかさせるかよ」

まあお前最後の方は寝ぼけてたもんなァなんて笑って、スタスタと歩き出した彼を見ると その無節操に散らばる髪の合間から覗く耳が赤く染まっているのが見えた。


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