カゲは存外甘えたがりなのかもしれない。
彼の部屋に入るなり無言でわたしの腕を強引に引っ張ってベッドに押し倒すと、乱暴に覆い被さって これまた乱暴に深いキスをする。
激しく求められ なかなか止まらないそれに息が苦しくなってきて両手で彼の肩を押してみるけど、逆にその両手を取られて指を絡められてしまった。
どちらのものかわからない荒い息が漏れて頭がぼんやりしてくる。そしてじんわりと身体の中から熱を帯びていくのを感じた。

「っは……なまえ、」

ようやくキスから解放されて、わたしは不足した酸素を脳へ送り込む。心臓がドクドクと脈を打っているのがわかる。カゲはキスを終えて、わたしの首元に顔を埋めるとぱたりと動かなくなってしまった。彼の散らばった髪が素肌に当たって擽ったい。身を捩ってみるけれどそれは逆効果だったようで、余計に擽ったかったからやめた。カゲがこうして身を委ねてくること自体が珍しくて、なんだか甘えられているみたいでちょっぴり嬉しい。
乱れた呼吸を整えつつ彼の様子を伺っているとしばらくしてようやく顔をあげた。よかった、寝ちゃったかと思った。

「カゲ、なにかあったの?」
「別になんもねえよ」
「ほんとに?」
「ほんと」

そっかあ。とぼんやり返事をしてもう一度カゲを見ると今度はぱっちりと目が合った。今日の彼の珍しい態度は一体何だったのだろう。いつもはその見た目に反して強引さなんてこれっぽっちもなくて わたしが申し訳なくなるくらいゆっくり、ゆっくりわたしのペースに合わせて触れるのだ。だから少し びっくりした。

「なに余計な事考えてんだ」
「んーん。別に」

きっと今日はそういう気分だっただけかもしれない。それでもいつもわたしに合わせてくれているから、今日はカゲの好きなようにしてほしいよ。わたしの中でそんな思いがむくむくと湧いてきた。

「カゲ、」

今度はわたしから彼の唇に触れた。思えばわたしからキスをする事なんて今までにあっただろうか。あれ、この後どうすればいいんだっけ。触れるだけのキスをしながらもわたしの頭は混乱状態だった。
すると突然カゲの手がわたしの後頭部に回ってきてぐっと固定される。一瞬だけでもわたしが握ったイニシアチブは、いとも簡単に覆されたようだった。

「無理すんじゃねえよ」

別に無理なんかしてないのに。その言葉は彼に飲み込まれてしまった。わたしが固く結んでいた唇を割って熱い舌が侵入してくる。身体が、熱い。恥ずかしくてなんとかそれから逃れようとするけれど 彼の腕が、唇が、それを許さない。
自分でもびっくりするくらいの甘い声が漏れて恥ずかしさで死にそうなのに、とてつもなく幸せだと思った。

「ハッ、…んな声出してっと食っちまうぞ」

いつもの如く威嚇するみたいにそう言うけれども、カゲもわたしももう止まれないことはわかっている。それでも羞恥が捨てられないわたしは、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でいいよと言って目蓋を閉じた。


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