三輪秀次くんは、無愛想だ。
わたしはボーダーに入ってから彼と知り合ったからそれより前の彼のことはよく知らない。わたしの秀次くんへの第一印象は近界民を排除するために生きているような人、だ。食事や遊びなんてこれっぽっちも興味なさそうだし、それは恐らく事実だ。
わたしは彼と違って近界民に家族を殺されたとかはたまた家を壊されたとか そういう経験を経てボーダーに入ったわけではないのでその辺の理解はできなくて当然なのだろう。
でも最近、秀次くんに対する印象が変わってきた気がする。
たとえば、腕をふるってごはんを作った時にはそれを美味しいと言って全部食べてくれたし、彼の誕生日にプレゼントを渡すとありがとうと言って(相変わらず仏頂面ではあったが)受け取ってくれた。思ったよりも優しいんじゃないか、なんて失礼なことを考えた。
「なまえ!」
その日は防衛任務中に門が開き近界民との戦闘をしていた。任務前に模擬戦を長々とやっていたツケなのかトリオンが切れてしまい、隊の先輩に庇ってもらいつつ戦闘は終わったが生身で少し攻撃をくらってしまったのだ。
軽い怪我だから大丈夫なのに、とは言ったが血はどくどくと流れるもので隊室で包帯を巻かれながら先輩から説教を受けていた。
すると突然 眉を寄せて怒った表情の秀次くんがズカズカと隊室に入ってきたのだ。
「秀次くん?どうしたの」
「どうしたのじゃない。お前が怪我をしたと聞いて来たんだ」
その声からも彼が怒っているのは簡単に察することができた。
「ごめん…でもそんな酷い怪我じゃないから大丈夫だよ」
「そういう問題じゃない。……心配した」
隊の仲間たちはお互いに顔を見合わせて空気を読んだのか何なのか部屋を出て行ってしまった。これで部屋はわたしと秀次くんのふたりっきりになってしまった。
「心配してくれて、ありがとう。ちょっとびっくりした」
「俺がこんな焦っている事にか?」
「うん…まあ」
「俺は、お前が思っているよりも弱い」
座っているわたしの前に座って、包帯の巻かれた部分をじっと見た。
そうだ、彼はわたしが思っているよりもずっと優しくて人間らしくて不完全なのかもしれない。でもそれが、本当の彼なのだ。
「じゃあ、弱いところもぜんぶわたしに見せて」
そう言うと秀次くんは一瞬驚いたように目を見開いて それから生意気だ、と零した。
「もう心配をかけるな」
「……努力します」
わたしの手に触れた彼の手は、とても温かかった。